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ジャズピアノソロを弾くときに、左手和音と右手メロディという発想だけだと行き詰る理由を解説します

  • 2024年7月28日
  • 読了時間: 8分

更新日:2024年8月20日


 

  こんにちは、ジャズピアノ研究室管理人の田中です。


 前回の記事「ジャズピアノは大きく分けて3種類存在する!?」の中で、ピアノソロで曲を弾き、ジャズアレンジにおいて効果的なサウンドを得るためには「左手でコードトーンを機械的に抑え、右手でメロディ」という発想では、遅かれ早かれ行き詰る。ということを書きました。


 今回はその内容の補足をすると同時に、最近立ち上げたYouTubeアカウントで、いくつかのジャズスタンダードの簡易的なボイシング例を挙げましたので、その共有を致します。


Youtubeリンクはこちら


 これまで著作権の関係上、サイトの中では流せる曲が限られていましたが、YouTube上ではいくつかの注意点さえ押さえれば、曲に関しての制約はかなり緩和されますので、扱える曲が増えました。


 見て頂くと分かりますが、大して手の込んだ動画には見えません。が、それでも準備が意外と面倒なので、今の所は、できる時に適宜、曲を追加更新する運用になりそうだと考えています。とりあえず、まずは数曲入れております。今後は、4小節とか8小節のもう少し短いメロディ中心になる気がします。


 一応注記しておくと、鑑賞用ではなく、あくまでボイシングの例を提示することが主旨の動画です。(まあ、そもそも、どんな動画であれ、私の演奏が観賞用として機能するほどのものではないと思いますが。)


それでは記事の内容に入ります。



・なぜ、左手で4音(CM7=ドミソシ、Dm7=レファラドなど)のコードを抑えてもうまくいかないか。



 

<その1>音域

 

 確かに、この1オクターブ内に4つの音を密集させた並び方、通称4way close(フォーウェイクローズ)は非常に基本的で、このコードトーンから様々なボイシングを考えていくことは間違いありません。しかし、問題は、その音域です。繰り返しになりますが、ヘ音記号音域は音が低く、音を重ねると重くなったり、響きが濁りやすいのです。


 ですから、実は、4ウェイクローズは、ト音記号音域に適したボイシングということです。つまり、右手単音どころか、右手を4音として、メロディを弾くわけです。この音の配置は、ビッグバンドのサックスやトランペットの「ソリ」で使われたりします。


 もっと言うと、この4ウェイクローズのトップノートの1オクターブ下の音を、左手を使ってダブリングしたボイシングのことを、一般的にシアリング奏法と呼び、多くのピアニストが使用するボイシングです。


 ここで注意点を挙げておくと、もちろん、左手のヘ音記号域において、4声のボイシングが使われないわけではありません。むしろ、よく使います。しかし、それがいつかと言うと、ベーシストがいて低音をベースに任せ、ピアノは主に、右手でフレーズを弾いている時です。つまり、バンドにおいていわゆるアドリブソロをしている時です。


 この時の左手は、コードの3度や7度、いわゆるガイドトーンのどちらかを一番低い所に配置して構成音に5度やテンションを加える、ルートレス(Root Less)ボイシングであることが多いです。


 しかしこのボイシングを「ピアノソロ」で弾いても、ルートがないためコード感を出すのが難しいです。少し見方を変えれば、低音域が不足しており、ピアノの鍵盤を広く使った、豊かなサウンドになりにくいということです。


 また、仮にソロで使用したとして、(「ルートレス」ボイシングではあるものの)最低音が「ルート」に聞こえてしまうことがあるのも、注意が必要なポイントです。例えば、Fm9として以下の譜面を弾いても、音としては大抵A♭M7にしか聞こえません。


Fm9のコード


 そして、もう一つ、バンドにおいてルートレスボイシングを使う場合でさえも、左手の音域が低くなり過ぎないように注意します。その結果、キーによって優先的に登場させる転回形のパターンに差があります。これはつまり、キーが違えば、転回形によって、最低音がどの位置に来るか変わるということです。要は転回させるほど、音は上に上がるからです。



 ということで、左手音域で4音の密集和音を使うには、上記のようなポイントがあると同時に、原則、ベーシストがいることが前提の構成音や音の配置になっているということです。ただ今回は、どちらか言うと、ソロピアノでジャズアレンジをする場合に焦点を当てているので、ルートレスボイシングの詳細は割愛します。


 もちろん、どのような場合でも、例外やバリエーションは存在しますし、時代が新しくなれば複雑なボイシングが増えてきますが、上記の原則は知っておくべきでしょう。

 


 

その2<ボイスリーディング>


 ボイスリーディングについては過去の記事「続 ジャズスタンダード「チェロキー」は簡単だ?!メジャーツーファイブワン・ボイスリーディングについて」にて説明していますが、簡単に説明すると、いかに進行する前後の両方のコードに共通する音を残し、いかにボイシングの中で変化する音を少なくするか、ということです。


 上記その1の<音域>の後半で説明したルートレスボイシングをジャズでよく出てくるツーファイブワン進行で弾いた場合、3度と7度を半音ずつずらしていくボイスリーディングとなるため、音域を変えて左手が飛び回ることがありません。


 ところが、コードが変わるたびに4声でレファラド、ソシレファ、ドミソシのように動いていると、ボイスリーディングが上手く行っていないということになります。


 クラシックでも、基本的には平行禁則があるように、いくつかの声部が平行して動くと、その響きが強調されて、調和がとれた進行にならないということらしいです。


 そういった話を抜きにしても、4音を縦に並べた音をあちこちに移動させるボイシングがあまり美しく聞こえないことは、感覚的に分かるかと思います。


 

その3<コードの役割とテンション>


 コードは同じコードでも、出てくるキーや前後関係でその役割が変わります。そうすると、何が変わるかというと、綺麗にサウンドするテンションが変わります。このテンションはスケール理論から導かれ、元にする理論が異なると多少違いが出てくると思いますが、今回はそこまで細かい話はしません。


 何が言いたいかというと、ジャズらしいサウンドと言って多くの人がイメージするものの一つは、ジャズにおける複雑なテンションです。(最も手っ取り早く、典型的なものとしては、9度を入れることだと思います。)


 しかし、あるコードをコード進行やキーとの関連抜きに単体で構成音だけ考えているうちは、そういったテンションがコントロールできないということです。頑張ってコードトーンを覚えるのはもちろん重要ですが、徐々にコードとキーを考えていく必要があることは、頭に入れておくといいでしょう。


 以下にG7を三つ挙げますが、CメジャーキーのⅤ7、FメジャーのⅡ7、B♭メジャーのⅥ7として登場する場合で、それぞれ違うテンションになります。それぞれ、9、#11、♭9です。Cメジャーの場合はもちろん他の可能性もありますが、ここでは最もシンプルな、ミクソリディアンに基づく音です。


楽譜

 上記はシンプルな例ではありますが、実際にはこのようなテンションを、上手く構成したボイシングというのは、和音中でオクターブでの音の重複を避けて音を配置します。


 テンションは、原則、基本のコードの上に乗っかるものですので、それほど低い位置には入ってきません。右手がメロディしか弾かないというのは、重複を避けて様々な音を和音に含めたい所で、その可能性を大幅に制限してしまうことにつながってしまいます。


 

以上、簡単ではありますが、前回の補足を致しました。


 また、リンク先の動画では、ボイシングの例を挙げていますが、これらはあくまで一例です。

しかし、初心者の人にとっては、もともとのリードシートにないコードが追加されまくっている等、何が起こっているのか理解できない部分があるでしょう。


 もちろん、最初はそれで全然構いません。重要なことは、左手が和音、右手が単音フレーズという発想ではたどり着かないサウンドが、どのようなボイシングなのかを知ることです。そして、なぜそのような音が成り立っているのか、細かい理論は分からないなりにも、とりあえず弾いてみるのも良いでしょう。


 更に、しばらくの間ジャズに取り組んでから、再び同じ動画やブログ記事を見たときに、分かることが増えているのを実感すれば、自身の成長を実感することになります。(別にボイシングに限らず、あらゆることで。)


 最初は「ディミニッシュのドロップ2の上から2番目を全音上げると、上3音がトライアドの第一転回になる」とか「セブンスにおけるオルタードのアッパーストラクチャートライアドは、メジャーならば#11と♭13」とか言われても、もはや日本語であって日本語に聞こえないでしょう。


 しかし、続けていればいずれ理解できる時が来るはずです。


念のため付け加えておくと、私のボイシング例は、ジャズピアニストの演奏や発想から拝借している部分はあるものの、全体として、まだまだ完成度が低く、準備しました感が抜けない部分も多々あります。(演奏自体の完成度という観点も含めて。)


 当然ながら、ジャズピアニスト達の演奏ははるかに複雑であると同時に、引き出しの多さも桁違いということは是非知っておいて頂きたいことです。音源からの発掘作業は決して楽なものではありませんが、ジャズピアニストの演奏は宝の山ということです。


今回の記事があなたの役に立てば幸いです。


ジャズピアノ研究室 管理人

田中正大


*その他の記事

「いつか王子様が」Someday My Prince Will Comeについて緩く述べる回はこちら



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