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【ジャズピアノ】せっかく耳コピしてみても、上手くなった気がしない時に考えてみるといいこと

  • 2024年11月10日
  • 読了時間: 23分

更新日:2024年12月10日


 

  こんにちは、ジャズピアノ研究室管理人の田中です。


 あなたはジャズピアノを始めて、「耳コピが効果的だ」という情報に基づき、実際に耳コピしたのは良いものの、なんだか上達している気がしない。という状態に陥ったことはないでしょうか?


 ここで言う上達の定義は、それがどんなものであれ、あなたが望む姿や、こうなりたい、と思う理想の状態に近づくということです。ボーリングやゴルフのスコアが上がったとか、バッティングセンターで今まで打てなかった球速の球を打ち返せるようになったとか、50m走のタイムが速くなった。という明確な定義はできませんが、上記の定義でも十分イメージして頂けるかと思います。


 つまり、最初の質問は、頑張って耳コピしているのにちっとも理想の状態に近づいている気がしない。と感じることはないでしょうか?と言い換えることができます。


 もし、その答えが「感じることがある」と言う場合、もしかすると何のために耳コピをしているか、改めて意識し直すことで、状況を改善できるかもしれません。この意識改革に当たっては、世の中で言われているジャズ練習の当たり前にとらわれず、自分なりの耳コピの目的をしっかり見つけることが重要です。



 

 どういうことか、一例を挙げましょう。


 私は大学時代にビッグバンドサークルに所属していましたが、その頃の経験に関する話です。学生ビッグバンドの多くは、曲中に含まれる(ソリストの)ソロの部分は、ソロ担当になったメンバーが音源のソロを耳コピして、それを丸暗記して、演奏することが多いです。難しすぎる部分は適宜端折ることもありますが。


 そして、そういったアプローチで演奏、練習を続けた結果、基本的にアドリブをちゃんとできるようになる学生はほとんどいなかった(私も含めてですが)といっても過言ではありませんでした。


 一応補足しておくと、枯葉やブルースなどで、不協和を生じさせずに、スケール一発などで「予め譜面を用意せずに」演奏できる位のレベルになる人もいます。そうではなく、バップの細かいチェンジに対応したり、リズム隊がいない時に単音でコード進行や曲の場所、リズムを出せる様なアドリブができるまで上達しないという意味です。


 以上のことから、いくつか分かることがあります。まず、耳コピは、訓練である程度は誰でもできるようになることです。ソロを担当するメンバーで大学から音楽を始めるような人もいましたが、ちゃんと耳コピしていました。もちろん、「ある程度」がどの程度かは人に依りますし、難解な和音やボイシングや、再生速度変更なしにすさまじい速さのフレーズを聞き取れるかというと必ずしもそうとは限りません。


 ただ、少なくとも、単音のミディアムテンポのフレーズくらいであれば、聞き取って、覚えてくる場合がほとんどです。


 そしてこの時、この耳コピの目的は「音源を覚えて、ビッグバンドの曲中のソロ尺で、それなりの演奏をする」ということになり、その目的は達成されていることになります。しかし一方で、もし「アドリブできるようなるために」耳コピしていたのであれば、このような、音源を耳コピして覚えて練習しまくる、というアプローチではアドリブを習得するとう目的は達成できないことが示唆されます。


 これは当然の話で、アドリブを取りたければ、そのための練習方法があり、それは丸暗記をして覚えまくるという方法ではないからです。その私なりの方法は後程、簡単に説明するとして、ここまでのことを考えた時に、ジャズの耳コピの難しさ、ジャズの演奏や取り組みの難しさが垣間見えてきます。


 すなわち、こちらの記事で既に説明したように、耳コピの一つの大きなモチベーションは、自分の好きな音楽を自身の手で再現し、それを楽しむことだと考えられるわけです。模倣欲求や再現欲求と言えます。


 多くの音楽ではこれが練習や取り組みのモチベーションになります。「この曲が好き」「この曲を弾きたい」ということです。一方で、一般的にジャズと言われて演奏されるものは、少人数による即興を主体とした演奏であり、毎度の演奏の再現性が低いのです。別の言い方をすれば、誰かのアドリブを丸暗記して、それをそのまま聴衆の前で再演奏する。という方法は少数派です。


 それこそ、そういった演奏は学生ビッグバンドという例外くらいでしょう。そのため、私の所属していたバンドは、コンボ演奏ができる先輩たちに「ジャズができないジャズサークル」と(愛情のある?)揶揄をされていた位です。


 また、小曽根真さんのピーターソン好きは有名で、学生の頃などは「彼の様に弾ければ幸せ」だったそうです。実際、小曽根さんのピーターソンの真似を聴いたことがありますが、本当にそっくりでした。ところが、プロとしてやっていく上ではオリジナリティが必要だから、自分のスタイルを作っていく必要があるということで、現在に至るわけです。


 アマチュアの場合は、一人のピアニストを完全に真似できるだけでも驚愕のレベルに達していると考えられますが、要するに何が言いたいかというと、ただただ再現できれば幸せだったり、丸暗記してそれを弾ければ満足。というアプローチと、耳コピしたものを材料にして、自分の演奏やアドリブで表現できるように落とし込むというのは、別物だということです。


 後者の場合は、丸暗記ではなく、アドリブの一部分だけでも構わないので、奏者が何をやっているのか意図を汲み取り、それを耳コピした曲以外のどんな曲なら同じように弾くことができるか考え、実際にいつでも弾けるように何度も練習し、実際の演奏の場でもすらすら出てくるまで血肉にするという過程を経る必要があります。そのために、理論の勉強をする必要もあるでしょう。


 もちろん、好きなピアニストを耳コピする方が、こういった取り組みもモチベーションが上がるので、自身の演奏に影響を与えやすくなります。それでも、ただ丸々耳コピして、それを丸暗記してそのまま弾くよりは、自分のアドリブを介したアウトプットの方が本物から遠ざかるのは想像に難くありません。


 アマチュアがジャズに向き合う時の難しさは、音源の再現や好きなピアニストの真似、自身のオリジナリティをどれだけ築きたいのか、どのくらい真剣に耳コピに取り組んでいるか。耳コピしたものをどのくらい理論でしっかり分析するか。という度合いが、個人に大きく依存することです。


 我々アマチュアピアニストは、他人に著しい迷惑をかけない限り、かなりの自己満足が許される身分ですが、セッションにおいては、この価値観のバラツキが特に顕在化すると感じています。


例えば、

細かい理論は気にせず耳コピしてきたものを好きなように弾きたい人。

自分のスタイルやオリジナリティを打ち立てたい人。

自分はレッド・ガーランドみたいになりたい人。など。


 別に、それぞれ、誰が何でも良いのですが、今一度、自分がどういう路線の嗜好を持つのか考えてみると同時に、方向性が違う人の言うことをあまり意識しすぎない方が良いと思うのです。そうしないと、自分がやりたいことと、嗜好が違う人のやりたいことのギャップがあり過ぎて、ジャズに楽しく取り組むことができなくなります。



方向性の違いと言う点のもう少し具体的な例を挙げましょう。


 まず偉大なるマーク・レヴィンの「the Jazz Theory」から引用です。


「全てを全てのキーで練習する」

全てのいうのは、ボイシング、リック、パターン、それに曲などを含めた、全てのものということです。

特に曲が重要です。新しい曲を学んだら、それをオリジナルキー以外のすべてのキーで練習しましょう。

~中略~(さまざまなキーで書かれた、難しいとされる曲の具体例がいくつか書かれている)

これら(注:曲に登場する難しいキー)がしっかりと身についていない限り、

これらの曲を気持ちよく演奏できる日はやって来ないでしょう。


続いて、よく聞くようなハイレベルなセッションのエピソード。


コールされた曲を知らないのは仕方ないが、次回来るまでに覚えてこないともう演奏させてもらえない。


 私ごときが言うのも説得力ありませんし、「だから下手なんだよ」と指摘が入りそうですが、私は上記に必ずしも賛成ではありません。


 当然、様々な練習は「やらないより、やったほうが良い」ですし、演奏は「できないより、できるに越したことはない」です。ただし、これはある意味で万能の説明であり、当然なことですので、議論の余地がないのです。


 でも、私はキーが変われば曲のテーマメロディも違うものになりますし、Shiny Stockingsは♭4つだからこそ、Shiny Stockingsなのだし、Cuteは♭1つだからCuteなのだと思っています。以前、ワルツフォーデビーをエヴァンスのキーでないもので演奏している音源を実家の父親が聴いていて「キー違う。気持ち悪い。」と言ったら「不便な耳だな」と言われました。確かに不便かもしれませんが、こういう考え方もあるのです。

 

 またthe Jazz Theoryで例に挙がっていた「難しい曲」を気持ちよく演奏するより、好きな曲を更に上手く弾けるようになることの方が、興味があります。


 極端なことを言えば、ジャズのスタンダード曲なんて数百は軽く超えるわけで、レパートリーだって、突き詰めれば、テンポ300でGiant Stepsを全キーで(譜面見ずに)出来るようになるまで終わりがないことになります。AメジャーでInfant Eyesやりますか?


 ちなみに私はお察しの通り曲への興味が偏っているためBut not for Meやサニーサイドのコード進行は覚えていませんが、Stablematesは覚えています。(良いソロが取れるかどうかは別ですが。)ただし、覚えてはいますが、♭5つでしか弾けませんし、非常に難しい曲なので、譜面を見ている方が演奏は安定します。譜面を見ないことが大事なのか、良い演奏をすることが大事なのか分かりません。譜面を見なくても安定した演奏ができるまで練習しないといけないということですかね。


 もちろん、数百の曲を記憶し、スラスラひけるほどの基礎力があれば、その人が演奏するジャズは素晴らしいものになることは分かります。


 しかし、表現に終わりがない音楽という分野に取り組んでいる以上、ボーカルセッションのホストをやりたいのでもなければ、我々アマチュアピアニストは限られたレパートリーや、自分が特に興味を感じやすい曲に絞って表現を開拓するのも、否定されるものではないと考えています。



 段々、耳コピの話から脱線しかけているので、話を戻しますが、要は、これだけ様々な考え方があるため、自分がどういった目的で耳コピをしているのか。自分はどういったジャズをやりたいのか意識する必要があるということです。端的に言えば、ビッグバンドのアドリブソロ部分を再現できれば幸せな人が、#系のフレーズをスラスラと演奏できるようになりたいと考えている人が行っている耳コピと同じことをしてもダメだということです。


 もしかすると、上記のような私の価値観、反論の次点で、「そもそもジャズに取り組む人間の取るべき姿勢ではない。」という反論がどこかから飛んでくるかもしれません。そもそも、上記の様な細かいことに囚われている時点で、私の奏者としての器を反映しているのかもしれません。


 しかし、正直言わせてもらえば、仮にもこのようなサイトを運営し、ジャズの音源をいっぱい購入し、聴いている私ですら、「ジャズに取り組む人間にあるまじき態度」だと言うのであれば、別に自分のやっている音楽がジャズじゃなくても良いかなという気もします。


 とはいえ、もちろん、だからといって私もどのような取り組みでも良いと思っているわけではありません。あくまで、ジャズをやる上での大前提は、ジャズジャイアントの演奏に基づく音楽に取り組むということです。それがどんな取り組みであれ、バド・パウエルやエヴァンス(いや、別に誰でも良いですが)を聴く気がないのにジャズをやりたいと言っている場合は、それは違うぞと思うわけです。


 ちなみに、ジャズではこういった先人への絶対的なリスペクトの精神を持ちつつも、アドリブというかなり自己中心的な表現が音楽の主体です。この両者の絶妙なバランスが、一般的に、ジャズ以外の音楽に取り組む人にはジャズを理解しがたい理由なのだろうと考えられます。


 それでは、あくまでジャズに取り組むならば、ジャズジャイアントの演奏に基づく練習をするのだという前提に立ち、どのようなジャズの取り組み方に対して、どのような耳コピが向いているのか、私なりの説明をしていきたいと思います。


 

 まず、ただ再現したいだけというのであれば、もう耳コピしたものを自分で弾いて楽しんで頂ければと思います。コピー譜も市販されていますし、それを弾くのが幸せならばそれで良いでしょう。ただし、完全なソロピアノでは、多くのピアニストは平気で10度を使うため、日本人の標準的な手では抑えられません。その点は予め覚悟しておいた方が良いでしょう。個人的に、10度が再現できていないサウンドは、かなりストレスを感じます。


 また、難しすぎる箇所は、適宜調整をするのが許されるのがジャズという音楽です。その際に、理論の知識がある方が便利な場合もあり、それが勉強のモチベーションになるかもしれません。


 再現に当たり意識すべきことは、当然ながら再現の精度やクオリティを上げるほど、練習時間を要し、レパートリーの拡張は難しくなります。ソロを1曲完コピしようとすれば、概して普通に既成のピアノ曲一曲練習するのと大差ありませんから、場合によって、1曲仕上げるのに月単位で時間がかかることもあり得ます。


 一方、アドリブフレーズを耳コピした場合においては、ベースやドラムがいないと、物足りないと感じる場合があるかもしれません。その場合は、伴奏アプリを使ったり、セッションに行くことも視野に入れて良いかもしれません。セッションに行って、アドリブを弾かないのは良いか?ということですが、別に良いんじゃないでしょうか。


 あなたは耳コピした誰かのアドリブをベースとドラムの伴奏で弾きたいわけです。それをしてはいけない。というセッションを見たことがありません。他の参加者がみんなアドリブなのに自分はコピーフレーズであることも、個人的には気にしなくて良いと思います。


 正直、アドリブと言いつつ、適当な音を並べているだけの人もたくさんいます。(繰り返しますが、別にそれはそれでいいんじゃないでしょうか。)むしろ完璧にコピーフレーズ弾き、そこに本人がいるかのごとく演奏する方が、はるかに難易度が高いと思います。個人的に、なかなかジャズが流行らないこのご時世、この位の価値観変容があって良いように思います。


 ただし、それだけ耳コピの精度を上げるにはそれなりに時間がかかるでしょうから、やはり多くをこなすことが難しいです。せっかくセッションに行っても、時間的にはあまり弾けないかもしれません。コストは少々高くつく可能性があります。


 伴奏の再現は、ソリストも含めた有無で考える必要がありますが、ソリストまで再現したければ、自分でそういうコンセプトのバンドを組むか、自分で多重録音するか、レッスンに行って先生にソリスト部分を弾いてもらうなどの方法が考えられます。あまり多くはないと思うので、こちらはこの辺りで。


 

 続いて、再現ではなく、より一般的な考え方である、「聞いて学ぶ」方の耳コピについての説明です。既に述べた通り、例外的な人を除き、好きな演奏を耳コピし、ただそれを繰り返し弾いていれば、それだけで万能な練習になるほど甘くはなく、再現の喜び、楽しさと、学びの完全な両立はできません。


 むしろどれだけ精密に耳コピをして、それを自分のアドリブに取り込んだとしても、それが自分のアドリブを介して演奏された時にオリジナルのアドリブと同じになることはまずありません。尚、その理由について「the Jazz Theory」ではいくつか挙がっていますが、例えば、芸術的な感性がそれを妨げたり、指の器用さや人生経験の違いがあるからとのことです。


 さて、まず知らない曲を習得したい場合や、知っている曲でも更に解釈を深めたい場合は、ベースラインや鳴っている伴奏からコード進行を推測し、そのコード進行は一般的なのか、アレンジ(リハモ)されているのか、といったことを考えます。大まかなコード進行はスタ本を参考にすると当たりがつけやすいでしょう。また音源ではテーマメロディはフェイクされているのか、そうでもないのか、といった視点もあるでしょう。


 そして、これから述べる理由により、このプロセスにどこまで時間をかけるかというのは、どこまで一曲の解釈にこだわりたいのか。逆に広く浅く色々な曲をやりたいのかといった、個人の好み、やりたいことに依るわけです。


 さて、以前の記事で、2つI’ll Close My Eyes(アイクロ)の解説をしましたが(記事はこちら→ウィントンケリーと、トミフラ)、これらの音源は、それぞれ、微妙にコード進行が異なっており、また、それはよく見かける黒本と呼ばれるスタ本とも異なっています。


 また紹介したアイクロではフロントがいますが、ピアノトリオの場合は、メロディーをどのように弾いているか(和音付け、ハーモナイズ)しているか、分析する場合もあるでしょう。


 スタ本に乗っている「セッションでよくやる曲」レベルでも、このように音源によりコード進行の細かい違いが採用されていることもあり、どこまでを別物、どこまでをちょっとしたパターン変化とみなすのかなどは、個人的に非常に判断が難しいと感じています。細かな違いも区別しつつ、曲数もこなしたい場合は、かなり耳コピの時間を確保する必要があるでしょう。



 更に他の例を挙げれば、Kenny Barronはステラのラスト前4~3小節の所の


|Cm7♭5|F7|


を、1小節内2拍ずつ、半音上からのツーファイブを連続させます。


|C#m7♭5/F#7|Cm7♭5/F7|


 スタン・ゲッツがバロンと一緒にやっているステラもこの進行ですが、これはゲッツがこの進行を使っているのか、バロンがこの進行をゲッツに持ち込んだのかは分かりません。別にゲッツの過去の録音をさかのぼれば分かるかもしれませんが、興味がないので・・・バロンとトミフラがピアノデュオをしている70年代の録音では、半音上は挿入していないようなので、真相はいかに?


 ちなみに、ハンク・ジョーンズもステラをレパートリー(よく録音する曲)に加えていますが、また場所によって上記とはまた違った進行が聞こえてきます。


 ステラくらい慣れた進行なので、気づきますし、セッションでいきなりこういう進行が鳴っても対応できるかはともかく、気付くことはできるでしょう。しかし、これが自分にとって慣れていない曲であればどうでしょう。これは気付かないし付いていけません。


 では、あなたは、上記の様にステラの進行3つ覚えるなら、違う曲を1曲覚える方が楽しいでしょうか?


 このように、ごくごく一般的なスタンダード曲でもこういった状況です。好きな曲に絞って、様々な音源を聞き込みたいのか、多少広く浅くでも、様々な曲を聴きたいのか。この、広さと深さそれぞれにどの辺に線を引くかは非常に難しいし、それこそ、個人の向上心、音楽的好みなどによって大きく変わってくるでしょう。


 I remember youは比較的覚えるべき曲に入ると思いますが、割と色々なキーで演奏される上、進行バリエーションも多く、私にとっては、コードを覚えて「様々な状況」に素早く対応できるようにするモチベーションが上がらない曲です。スタ本の進行を丸暗記するくらいなら、頑張ればできると思いますが、結局頑張る必要があります。


 あるいは切り口を少し変えてみると、私が知る限りではハンク・ジョーンズはBeautiful Loveを録音している気配がありません。(とはいえ、すごい数の作品なので、あるかもしれませんが、有名どころのリーダー作における録音はおそらくないです。)弾けないわけないし、その気になれば相当のレベルの演奏をするはずです。でも録音していません。好きじゃないのでしょうかね。


 で、アマチュアピアニストにとって、このBeautiful Loveのラインをどこに持ってくるか。ということになります。当然求めるレベルはハンク・ジョーンズよりも全体的に著しく下がりますが、ある程度の演奏レベルに到達した人ならば、知っているけど、演奏前に少しコードの流れを確認したい。いつでもすぐに演奏はできないけど、ちょっと復習の時間があれば大分精度が上がるという曲をいくつも持っている人はたくさんいるはずです。ではそれらをいつでも完璧に覚えないと、やる気があるとは見なされないのか?そうではないでしょう。


 アマチュアは、ある程度決まったバンドメンバーで定期的に演奏するのが難しい場合があるため、アンサンブルしたければセッションに行くのが一番手っ取り早いわけです。そしてセッションに集まる人たちは、自分が得意な曲、好きな曲、やりたい曲がバラバラなわけで、何十、何百とあるスタンダードから、その場のメンバーの希望がピタッと一致するなんて宝くじの当選確率が可愛く見えるほどの数字になります。


 そのために、最大公約数的な情報が記載されたスタ本が存在し、とりあえずそれに合わせておけば大きな問題は発生しない、ということではないでしょうか。繰り返しになりますが、一般的に覚えるべき曲のかなり上位のステラですら、音源によってあれだけ違ったわけです。


 つまり逆を言えば、スタ本というのはそういう役割であり、ある程度のレベル以上に到達したら、曲の習得はあくまでメインは音源の耳コピであるべきだということです。はっきり言って普通のミディアムテンポの歌モノを、譜面に書かれたコード通りに「無難に」合わせる位ならば、慣れればそのうちできるようになります。


 しかしそれは、球技に例えるならば基礎練をしないで練習試合ばかりやっている様なものです。アウトプットでしか得られない経験もありますが、インプットしなければ伸びない部分を見落としてはいけません。まあ、結局、色々な曲を色々弾いてみたい人なのか、限られた曲を深く掘り下げたい人なのかという違いによって、スタ本に頼る度合いが異なるということです。あなたはどちらの傾向が強いでしょうか?


 個人の好みでそれはどちらでも良いと思いますが、なかなか、アマチュアでこの曲数と精度を両立するのは大変です。自分がどちらの傾向なのかを知り、それに合わせた耳コピをすることが重要です。


 回りくどくなりましたが、曲の耳コピについては以上です。



 

 ではアドリブのラインを勉強したいときはどうするのか?これは、音源がどのようなコード進行を採用しているのかざっと聞きとり、その上でフレーズが、どのような音使いをされているか分析します。コード進行に対して使われている音が分かったら、それが他の曲のどこの部分でも演奏できそうか考えたり、場合によって、移調や全キー練習を考える場合もあるでしょう。


 この辺りも基本的な考え方は「曲自体」の耳コピと同じであり、自分がどうなりたいからフレーズを耳コピしているのか、考えることが重要です。もし、ある決まった曲において、更にさまざまな表現の可能性を開拓したいならば、その曲の様々な音源を聞いたり、あるいは、その曲と同じ進行が出てくる他の曲を探してその部分を耳コピしてみたり。といった方法が考えられます。


 例えば、あなたはI’ll remember Aprilが大好きで、この曲の表現の幅を広げたいと考えています。特に、最初の4小節のGメジャーが続く所のアイデアが欲しい状態だとしましょう。しかし、もう手元に同曲の良い音源がありません。それならば、Out of NowhereやOrnithologyあたりを聴いてみると、何か良いアイデアが見つかるかもしれません。たまたま、この2曲は黒本の見開きで隣同士ですね。(本当にたまたまですが。)他にはThe night has a thousand eyesなどはいかがでしょう。ラテンでやるならばSpainなんかは盲点になっていませんか?


 違う可能性として、全く不慣れな、コード進行も十分に頭に入っていない曲であれば、まずはその曲の音源をよく聞き込む方が良いでしょう。不慣れな曲ということは、曲のサウンドが頭で鳴りにくい状態ですから、他の曲のサウンドが、練習したい曲に上手くハマるのかイメージしにくいはずです。

 

 ただし、その不慣れな部分を補ったり、イメージするのを助けてくれるのがジャズ理論の知識です。例えば、Dolphin Danceのテーマの2小節目のA♭7はリディアンセブンスがよくサウンドするため、There is no greater loveの3小節目と同じサウンドがハマります。といった具合です。

 

 この辺りをよく分かっておらずに、Stompin’ at the Savoyで出てくるA♭7のオルタードのフレーズをはめ込んでも、上手く行く可能性は低いです。


 もちろん、自分の好きなよく慣れた曲においても理論知識で補助してやることで、更に可能性が広がる可能性はありますが、どちらか言えば、新しい曲を解釈する場合の方が役立つ場面が多い気がします。


 こうして耳コピしたフレーズは、「再現」の時とは違って、2小節や4小節などの短い範囲に絞って、何度も何度も練習し、いつでも自分のフレーズとして出てくるようなるまで習得する必要があります。実は、音を耳コピするよりも、こちらの練習の方がはるかに大変であり、時間がかかります。しかし、アドリブフレーズとして、自分のものにしたい場合は、その位の練習が必要なのです。


 そして、このようにしてアドリブフレーズを開拓する場合であっても、大きく分ければ、好きな曲、得意曲を更に深める方向性なのか、新曲、知らない曲を習得する方向性なのか、嗜好が分かれると言えそうです。


 ここまで来たところで、私がかねてよりI’ll Close My Eyesはジャズのコード進行を練習するのに向いていると説明してきたことについて、少し反省が必要かもしれません。というもの、私はこういったミディアムテンポの合う、メロディーが綺麗な歌モノを非常に好みますが、全ての人がそうではないということです。


 つまり、この曲が自身の好みに合わない人にとって、上記の私の主張では、練習のモチベーションが上がらない可能性があるかもしれません。


 正直、アイクロのコード進行は、私自身の好みを度外視して、極めて中立的な見解として、非常に練習に適した進行ではあります。それでも、やはり好きでない人にとっては好きでないでしょう。


 そうなると、他に思いつく良い曲はThe Shadow of Your Smile(いそしぎ)、次点として、辛うじてYou’d be so nice come home toといったところでしょうか。セッション登場頻度としては後者が優勢な気がしますが、進行としては、前者の方が素直な気がします。(そのうち機会があれば、この辺の曲のアドリブ解説も挙げるとしましょう。)


 いずれも、アイクロとは少し雰囲気が異なるので、アイクロが好きでない人でも、許容範囲として頂ければ幸いです。もし、自分はそもそもInner Urgeの様な曲が好きだと言う方は、申し訳ないですが、自力で頑張って下さい笑。


 

 さて今回は、具体的な譜面やフレーズは挙げられませんでしたが、耳コピをする際に、どういった視点で行えば、自分が本当にやりたいことに近づけるか。ということについて考えてみました。

 

 一般的に、ジャズの熟練者は、レパートリーを広げ、様々なキーで練習し、オリジナリティを開拓する傾向があります。しかし、その方向を守ろうとした場合、個人の嗜好ややりたいことによっては、せっかくの耳コピや練習も、いまいちモチベーションが上がらない可能性があります。

 

 ジャズ界の常識に縛られず、好きでもない曲より好きな曲にとことん取り組み、再現が好きならアドリブではなくコピーフレーズを弾くことを楽しむなどの非常識も良いのではないかと思う次第です。私も、リズムチェンジ、特にテンポが速い場合ですと、恐ろしく苦手ですし、そもそも、そういう演奏とか曲が良いと思う場合が少ないです。(ベイシーのBasie好きですが。)


 最後にまとめますと、耳コピというのは、その目的によって微妙にやり方が異なる部分があります。特に、アドリブをできるようになりたいのに、耳コピしたフレーズを丸暗記して、繰り返して弾けるようにしても、多くの場合、ジャズの基本的なルールに則ったアドリブの上達には寄与しません。


 また、世の中ではジャズを学習するならばこうあるべきである。といった一般的な共通認識もありますが、必ずしもそれが個人の趣味嗜好に一致するとは限りません。


 これらのことを意識して、今一度自分がジャズを通してどんな音楽ライフを送りたいのか、そのためにはどのような耳コピをすれば良いのか、考えるきっかけになればと思います。


 今回の内容があなたの役に立てば嬉しく思います。


 

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