こんにちは、ジャズピアノ研究室管理人の田中です。
前回の更新から、少し間が空いてしまいました。ですので、その分、今回は少しだけボリュームアップしてお届けします。
昨年末にベイシーを聞きに行ってからすっかりビッグバンド気分の管理人なのですが、そんなこともあり、この度、Thilo Wolfの「Swinging Fingers」でも耳コピするかと思い立ちました。この曲はビッグバンドのピアノフィーチャー曲です。フィーチャーというのは、日常でも使われることがありますが、ビッグバンドでも同じ意味で、とにかくそのソリストがソロを取りまくる曲のことです。
ビッグバンドをバックに従え、ガンガン弾きまくる、吹きまくる曲ですから、当然観客は盛り上がりますし、奏者の腕も試されます。余程、バンドメンバーから信頼されていないと演奏する機会など与えてもらえません。また、山野ビッグバンドジャズコンテストにおいて、フィーチャー曲で会場を盛り上げれば、場合によってソリスト賞の候補になったりするわけです。
Swinging FingersはピアニストのThilo Wolfが自身バンドで演奏しており、私の知る限りテイクが一つしかありません。YouTubeにある演奏動画も、音源になっているテイクも同一の演奏です。速いテンポで弾き倒し、途中でビートのチェンジもある非常に演奏効果が高いです。私が学生の頃は、多くの学バンピアニストの憧れの曲でした。(私はフィーチャーなんて考えもしませんでしたけど。)
ピアノのフィーチャー曲としてはこのSwinging Fingersや、ベイシーのthe Kid from Red Bankも候補が挙げられますが、どちらか言うとSwinging Fingersの方が人気はあったように思います。
その最も大きな理由はおそらく、ベイシーの場合、超絶のストライドピアノが頻出する割に、いまいち、Swinging Fingersの様に「弾き倒している」感もなく、難しさも伝わりにくいということだと思います。その一方で、やはりSwinging Fingersは盛り上がりやすいし、(フィーチャーやるような上手い人にとっては)まだマシな難しさだったのだろうと思っています。
当時、学バンの先輩と「もし弾くとするならばどっちが良いか」という話をしたことがあり、ベイシー好きだった私は「れっどばんくです」と即答しましたが、「マジ?!」という反応でした。まあ、どちらも弾けたわけがないのですが、あの当時の私の能力を考えれば、「れっどばんく」の音(特に左手)を端折りまくって弾くならば、上辺だけ一通り曲を通すくらいならば、なんとかできたと思われます。
しかし、あの当時はアドリブが全くダメでしたから、Swingingを弾くなら全部耳コピして丸暗記するしかありません。とてもじゃないですが、これから紹介する譜面を耳コピして丸暗記なんて、当時の私には手に負えません。というより、今の私でも、このアドリブを完コピして丸暗記は無理です。指が動きません。アドリブならばまだ可能性はあります。
(この辺りは、後述の解説のところで意図を説明します。)
そう考えると、当時、私の周りにもこれを弾く人たちが、先の先輩含めて何人かいましたが、皆さん本当にスゴかったと思います。アドリブだったか耳コピだったか、もはや覚えていませんが、いずれにしても、各々の難しさはあります。さすがフィーチャーを任されるだけのことはある演奏だったと思います。ちなみに、レッドバンクは今でも無理です。やはり、ストライドは難しすぎます。
さて、あれから20年経過した今となっては、Swinging Fingersも他の新たなピアノフィーチャー曲に取って代わられ、過去の曲になっているかもしれません。(最近の学バン事情を知らないので、本当に分かりません。)もしそうならば、仕方ない部分はあります。いや、逆に、そんな心配はどこ吹く風で未だに現役の人気曲かもしれません。いずれにしても今回久々に聴いてみて、やっぱりカッコイイ曲だとは思いましたので、ご興味ある方は、是非引き続きこの後もお読みください。
ちなみに、ビッグバンドだけでなく、エレクトーンのレパートリーにもなっているようですから、そちら方面の演奏者の方にも役立つ情報になっていれば嬉しく思います。
前置きが長くなりましたが、曲の中身に入っていきます。アドリブのブレイク部分の楽譜から掲載していきます。また、テーマのメロディの部分は著作権上、掲載するわけにいかないので、前半部の大まかなコード進行だけ載せています。アドリブ明けからエンディングは載せていませんが、前半のメロディ部分と基本的に同じですので、そちらと突き合わせる形で聞いてみて下さい。最後のテンポが落ちた、ペットが吹きまくるミディアムスイング部分はC7とF7行ったり来たりで、ブルースの様な響きです。最後のコードはC7のようです。メロディ部分のコードは記事下部に載せています。
初めにおことわりしておきたいのは、掲載しているコード進行は公式の譜面等を見て確認したものではなく、音源を聞いて大まかに割り振ったものです。細かい点で言えば、異なる部分もあると思いますし、ピアノがその場その場で選択しているボイシングには、必ずしもベースラインで鳴っている大枠のコード進行と一致していない場所もあるでしょう。そういった点は、あくまで参考程度としてください。一例としては、A部のCm7とF7を行ったり来たりしている所では、E♭M7のようになったり、F7が適宜挿入されたりしています。
アドリブ部分のコード進行は、B部と表記している部分の6小節繰り返し回数や、C部のコード進行など、メロディ部分と若干異なっています。ご注意下さい。
尚、映像を見る限り、ピアノはかなり頻繁に左手で伴奏を入れていますが、残念ながら、音源ではほとんど聞こえません。フレーズの合間などでかなりはっきり聞こえる部分はなるべく拾いましたが、私の力が及ばず、大体こんな感じだろう、という形となっている部分もあります。予めご了承下さい。





さて、全体を通したアドリブのスタイルですが、20年目の今改めて聴くと、そこまで複雑なフレーズを弾くタイプではありませんでした。すなわち、ブルーノート系の音やスケールを直線的に並べたり、ただの半音でつなぐといったフレーズが非常に多いです。
逆に、バップフレーズのような複雑なディレイドリゾルブや半音アプローチ(半音をただ並べるだけの上記とは意味合いが異なる)、コードトーンに沿って、ターゲットノートを追いかける様なスタイルは希薄です。また、モードジャズ的な4度系の音程もなく、アウトなどもありません。
曲のコード進行が、割と「一発もの」であることが影響しているためかと思いきや、中間部の5度圏の進行が繰り返される、いかにもジャズスタンダードに頻出するような進行でも、上記の傾向はそれほど変わりません。(注釈:これはその良し悪しの議論ではありません。)
これは非常に意外な発見でした。というのも、ベイシーをたくさん演奏していた大学当時の私にとって、この曲は「新しいスタイル」の曲であり、8ビートみたいなことをする曲であり、難しいコード進行の上で速い八分音符を弾き倒す曲であったので、弾いているフレーズだってかなり複雑なこと(東京アンサンブルラボのニカズドリームのピアノソロ的な)をしているものだと思っていたからです。
そうは言っても、実は今でも私は、ブルーノートスケール一発でコード進行を細かく気にせず弾き倒すというアプローチが決して得意ではありません。速いテンポの循環進行なんかもこれと同じ発想で弾くことができますが、どうもそういう場合に良いフレーズが出てきません。
結構ビバップ的なフレーズはよく練習しましたが、ピーターソンとか好きな割に、自分が弾くとなると、こういったことをちゃんとやってこなかったので、当たり前と言えば当たり前なのですけれど。
なので、私がもし仮にこの曲を今弾くとなれば、音源のような発想ではなく、また違ったタイプのアドリブになるだろうと思います。(もちろんメロディ含めて要猛練習です。)そうなった場合に、曲の雰囲気がどのように変わるかは興味深いものがあります。
それでは具体的な中身に入っていきます。
1~4小節目をブレイクとしています。3小節目のシ、ソで若干G7を感じさせますが、半音階が多く、強くコード感のあるフレーズではありません。ですから逆に、音の打点で拍を出さないといけないということです。とはいえ、あくまで音の基調はCマイナーブルーススケール(下)と考えて良さそうです。

5~6小節目は管楽器が入ってきて4小節単位の区切りが分かりにくくなっています。ただ、メロディのコード進行と、アドリブ時の小節数を突き合わせると、ここはあくまで4小節単位の前半2小節です。
7~8小節目はブレイクと同じ手癖ですね。その後も12小節までブルーノートを基調としたフレーズです。
14小節目の頭の「ソ」に向けて、ちょっとディレイドリゾルブの様な回り込みの動きが見られます。小節の変わり目に狙った音に着地しています。ただし、このソもCmのキーの5度という発想であり、Dm7の11度ではないと言えます。
その後の22小節目まで、スケールの直線的なフレーズだと思います。
(16小節でペンタトニックのようなフレーズも見られますね。)

23小節目からの8小節は別テイクを聴いたことが無いので定かではありませんが、おそらく管楽器の入り方からしても、ほとんど「決め」のようなフレーズでしょう。左手は良く聞こえませんが、コード進行に沿っていれば、そこまで違和感のあるサウンドにはならないと思います。
31小節目からの10小節は、13小節目と似たようなフレーズです。32小節目と16小節はほとんど同じですね。34小節目の1、2拍の三連符はDm7のルートと3度をつなぐ音使いで、コード感があります。この3度音程を行ったり来たりする三連符は多くの人が結構弾くように思います。2拍目の三連符のアクセントは1つ目と3つ目に来るはずです。
また36小節や39小節はGのブルーノートスケールの響きを感じます。
Gマイナーは♭一つだけ少ない、近いキーですし、これらコード内でも良くサウンドしています。(Dm7はGマイナーの平行長調のB♭メジャーの3度ですし、かなりB♭に近い音と言えます。)
41小節目からのコード進行はメロディの時のコードと異なります。
41小節のフレーズは少しコード感ありますが、42はただ半音階中心で、43小節目のEm7♭5の7度「レ」にアプローチ。その後は進行感のあるコードになります。フレーズはコードトーンによるリズム遊びになります。ロリンズのテナーマッドネスのようなリズムですね。

45小節目からは思いっきりツーファイブワン進行となり、リズム遊びを継続。
46小節目のB♭7の所ではGメジャートライアドになっていますが、テンションとしては♭9(シ)と13(ソ)です。E♭M7に解決後はCブルーススケールでブルージーなフレーズです。E♭M7もCm7も♭3個の平行長調、短調同士ですから、ブルーススケールがばっちりハマります。
49小節目からはツーファイブの連続となります。ここからはメロディの進行と一致しています。
49小節目Em7♭5の3、4拍目におけるド、シ♭、ソ、ソ#からの50小節のA7のラへのディレイドリゾルブ。その後もDm7♭5からG7、Cm7からF7も同様の音形が登場しています。ただし、Cm7はどちらか言えば、F7を先取りしていると考えた方が良いと思われ、最初の音はF7の♭9と解釈しても良いです。その後、54小節のF7からは55小節のB♭M7の3度「レ」に向けて綺麗にフレーズをつないでいます。
B♭M7に着地後は重音によるブルージーなフレーズと、34小節でも出てきた三連符のフレーズです。今回はコードがB♭M7なので、3度からの行ったり来たりになります。
ということで、この一帯ではブルーノートでの直線的なフレーズではないアドリブラインを垣間見せますが、A7はほぼアルペジオ、G7はGマイナーブルーノート(下図)であり、あくまで「垣間見せる」と言う程度かと思います。

57小節目のBm7♭5の所はディミニッシュスケールを駆け上がっています。ディミニッシュなのでB、F、D、A♭をルートとするセブンスコードの半音全音ディミニッシュスケールの構成音は全て同じですが、ここではBm7♭5をB7(♭9)のように捉えてディミニッシュで弾いていると考えることができます。(あくまで理論を当て込めば。)
その後のE7はただの半音階です。
B♭m7、E♭7のツーファイブはほとんどアルペジオです。
61小節はG♭M7へのツーファイブ部分であり、G♭メジャースケールを素直に弾いていると言えそうです。ちなみにメロディの時はA♭m7のところはDm7♭5だと思われますが、アドリブではツーファイブ進行にした方が弾きやすいと考えたのだと推察します。
63、64のツーファイブは3度音程で順番に降りてきている(だけ?)ですね。
65~68小節目は少々騒がしいですが、こんな感じのことを弾いているはずです。

69小節目から半音の動きになっていますが、70小節の1拍目の頭のミ♭という重要な音にきちんとアプローチしています。
71小節目の3、4拍目のド、シ♭、ソ、ラ♭(ソ#)、ラというディレイドリゾルブは、ドからラへのアプローチとして是非しっかり習得したい重要フレーズです。ここではコード進行が細かくないですが、ビバップフレーズとして頻出です。
72小節目の最後は短いダウングリッサンドです。グリッサンドはこの後も出てくるので簡単に弾き方を説明しておくと、爪の付け根が痛くなるほど鍵盤を押し込む必要はありません。
すなわち、ハンマーが弦に届くところまで鍵盤を下げれば(エスケープメントあたり)十分です。よほど爪が小さい人でなければ、爪の面積(高さ)の範囲内で鍵盤をエスケープメントまでちゃんと下げられます。
鍵盤の底からエスケープメントまで1mmほど余裕がありますが、この1mmはそれなりに影響が大きく、このたかが1mmで爪の付け根に横の鍵盤の角が当たるかどうかの別れ際になりえます。底まで鍵盤を下げなくてもグリッサンドが出来ることを知っておけば、爪の付け根が痛い問題を回避できるはずです。

さらに鍵盤を弾いて、弦がハンマーに届く時に、より小さい打力で弦をしっかり振動させるために、ペダルを踏んでダンパーを開放しておいてやれば良いのです。
後は、右手で弾くとして、上行では中指や人差し指、下降では親指を使うのが一般的です。ボードの人生ゲームのルーレットのピロピロが指になるイメージです。(伝わりますか?)
技術的なこと以外でもう一つ大事なのは、必ず音を出し始める拍と音、グリッサンドを弾ききる拍と音を決めて、しっかり拍にはめることです。適当なタイミングで、適当な音で弾くようなことがあってはいけません。
79小節目からはリズムが変わって、8ビートの様になります。(厳密に何か名前が付いたビートなのかは分かりませんが。)音としては、重音でブルージーな響きを出しています。
この時、左手は(残念ながら、和音構成ははっきり聞きとれませんが)、楽譜に記載したようなタイミングで入っています。
しかしポイントは、まさにこの通りに弾こうとするよりも、このリズムを元にしつつ、自分がビートを感じやすいように弾くことだと思われます。
実際、随所で入っている左手の4裏の前打音的なものは難しく、下手に入れようとする方がかえって重くなったり、ビート感が出にくくなる原因になります。それよりも、多少音数が少なくなったとしても、自分の感じた所で的確に裏拍に入れる方が自然にリズムに乗れるはずです。
右手のフレーズも同様で、79小節の最初を二分休符にする必要もないし、83小節の最初は音源でも若干音が抜けて。実は軽いミスだったのだと推測します。
ただ、自分でいい感じに弾いているつもりでも、客観的に聴くとノリが悪かったり、ダサいことはあり得るので、録音をして確認はした方が良いと思います。あと、余談としては、どうせリズム隊のサポートが入りますし、完全にピアノ一人で放り出されることはないので、頼れる所はドラムに頼るという考え方も、時には大切かもしれません。
87小節からは、Cm7(C7のこともあるかもしれませんが)とF7を行ったり来たりして、その上で、ひたすら弾き倒しています。適宜、違うフレージングも入っていますが、Cブルーススケールを基調としているといって差し支えなさそうです。
91小節からのミ♭、レ、ドを使ったリズム遊びなども面白いですね。
98小節のF7の所ではDブルーススケールの様な音使いが出てきます。
101小節の最初の装飾音はブルージーな音を効果的に鳴らしていますね。
99小節や107小節のミ♭、ソ、ソ♭、ファは効果的にCm7のコードトーンを捉えたブルージーなフレーズだと思いますし、100小節や108小節のフレーズは全く同じです。気に入った場合は練習して習得するのも良いでしょう。
後は、お気づきの通り、よく聞くと実は結構な頻度と長さで、半音階でつないでいることが多いです。管楽器がガンガン鳴って、ピアノが聞こえ辛くなっているのが功を奏している部分はあるかもしれませんが、半音階も適当ではなく、狙ってちゃんと弾くと、意外とちゃんと決まるといういい例と言えるでしょう。
後のオクターブでガンガン弾くのは、もう盛り上がってきて何でもありという所もあると思いますが、耳コピしたフレーズを弾かない場合は、表と裏入りを上手く組み合わせて、リズム感を出すと良いと思います。


以上いかがでしたか?
ビッグバンドは管楽器の迫力あるサウンドが大きな魅力ではありますが、ピアノもフィーチャーしてもらって頑張ると、これだけ目立つことができます。それだけの演奏をするには、もちろんそれだけの腕は必要ですが、やりがいのある曲なのではないかと思います。
最後にまとめますと、Swinging Fingersは私が学生時代にはビッグバンドのピアノフィーチャー曲として絶大な人気を誇っていました。あれから20年ほど経った現在の状況は、正直分かりませんが、今聞いても、やはりカッコいい曲だと思います。(昔聴いていたからなのかもしれませんが。)
アドリブのスタイルとしては、意外とシンプルで、ブルーノートスケールを基調とした音を直線的に並べ、かなり広範囲の半音階を多用しています。逆に、ビバップ的にターゲットノートを追いかけるようなフレーズや、モード的な4度系のフレーズは感じられません。
途中でビートが変わるところは、完全に音源の通りに弾くと言うよりは、あくまで参考にしつつも自分がリズムを感じ、出せるように弾くことが大切だと考えます。
最後の盛り上がりは盛り上がりつつも冷静さを失わず、しっかりリズム感を出していくのが良いでしょう。尚、ピアノアドリブまでのコード進行の概要も以下に記載しておきますのでご参考まで。


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