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いそしぎ(the Shadow of your smile)のアドリブ比較 ~Dan NimmerとHank Jones~

  • 2024年11月10日
  • 読了時間: 10分

 

  こんにちは、ジャズピアノ研究室管理人の田中です。


 前回の記事で、I’ll close my eyesが好みじゃない人のための練習候補として、似た様なツーファイブが多い曲とである「いそしぎ(the Shadow of your smile)」を挙げました。キーとしては、♭2つで演奏されることが多いです。今回は、Dan Nimmer(ダン・ニマー)とHank Jonesの二人のピアニストのソロを比較してみたいと思います。いずれも、♭2つで演奏されているものです。


 尚、ダン・ニマーはYouTubeに音源が見当たらなかったため、1コーラスだけの掲載に留めます。ちなみに音源はヴィーナスレコードから出ている、タイトル「All the things you are(君は我がすべて)」の10曲目に収録されているものです。気になる方は各自で確認してみてください。ちなみに、ボーカル入りの似たようなアルバムもあるようですが、そちらではなく、トリオ版の方ですのでご注意下さい。

※一応、YouTubeに打ち込みの参考程度の音源は作っておきました。リンクはコチラ


 さて、曲の全体としては、比較的♭2つのツーファイブワンが多めで、マイナーツーファイブワン(Am7♭5-D7-Gm7)とメジャーツーファイブワン(Cm7-F7-B♭M7)、そのバリエーションが頻繁に登場します。全体的に、マイナーツーファイブの雰囲気が強く出ており、ちょっとマイナー感のある曲に思いますが、最後に着地する曲のキーとしてはメジャーですね。


 そういう意味では、少しFly me to the moonやYou'd be so nice to come home toに似た所がある曲と言えそうです。


 

 早速、まずはダン・ニマーの方を見ていきます。ダン・ニマーはウィントン・ケリーから大きく影響を受けていることは明らかですが、レッド・ガーランド、ベイシー、ピーターソン、ハンク・ジョーンズ、トミフラも大好きということで、非常にオーソドックスで古き良きスタイルを主体としたピアニストと言えそうです。願わくば、もっと作品を出してくれればいいのですが、私の知る限りでは、ヴィーナスレコードから何枚か出ている程度で、それも若干入手しづらくなっているように思います。ちょっともったいないですね。


 さて、こちらのアドリブでは、音使いとしては、いわゆるブルーノートスケールを中心に組み立てられており、そういったフレーズの勉強に最適です。

楽譜

楽譜

 ブルーノートスケールというのは、とりあえずその構成音でフレーズを弾くことで、この曲の様にシンプルで調性にほとんど動きが無い曲(もっと言えば、例えばビバップのように、頻繁に♭の数をまたいで転調するような曲“ではない曲”、ブルース等)において、とりあえず「アドリブ」をすることできる、便利なスケールです。ちなみに、♭2つのGブルーノートスケールは以下の構成音です。(レ♭、ド#は異名同音)


楽譜

 しかし、もちろんそれは、アドリブなんてやったことがないし、本当に何をして良いか分からないというアドリブ初心者の人に向けて、「とりあえずこの音のどれかを好きに弾いてくれれば大丈夫」程度の意味であり、ただスケールの音を羅列したからといって、良いアドリブになるかどうかとは全く別の次元のことです。


 このスケール音を適当に並べたところで、譜例のダン・ニマーのようなアドリブにならないことは明らかであり、だからこそ、こういった優れたピアニストの録音を良く聞いて、使われている音のみならず、譜面に表せないような強さや長さといった表現を良く練習しないといけないわけです。


 また、ブルースのフレーズというのは良くも悪くも、ビバップほどコード進行を厳密に表現しないことが多いです。これは、ベースラインもコードも鳴っていない、単音でフレーズを鳴らすと(弾くと)、意味するところが分かりやすいと思います。


 5~6小節目(特に6小節目)や、23~24小節目、27小節目以降の様な、典型的なブルースフレーズを弾くと、一発でブルースの雰囲気になる強力さを持ち合わせます。個人的な感覚では、特に23~24小節では逆循環のコード進行になっており、Dm7(ただし♭5にはなっていません)-G7の所は、結構、哀愁と言うか、胸を締め付けられる様な、と言うか、ちょっとマイナー系の響きが出やすいはずだと思っています。しかし、このフレーズによって、見事にブルース一色になっています。同様に、27~28小節も似た様なことが言えると思っています。



楽譜

 

楽譜

 しかしその一方で、17小節に聴かれる様な、シンプル極まりないフレーズには、確実にメジャーではなく、マイナーな雰囲気を感じることができます。


楽譜

 このように、一言にブルーノートスケールと言っても、ただ音を並べればいいわけではなく、良いアドリブではどんなことをしているのか、良く聞き込むこと重要であることがお分かり頂けたかと思います。


 そういう私も、ブルースのフレーズというのはなかなか上手く弾くことができず、もっとたくさん耳コピして練習しないといけないな、といつも思っている次第です。


 

続いてハンク・ジョーンズです。音源はこちら


楽譜

楽譜

楽譜

楽譜

 ・ここからトレード

楽譜

楽譜

 

・分けて見ていきます

楽譜

 まずブレイクの3連符の連続ですが、こちらの記事(ジャズピアノ ブレイク練習のススメ)のOscar Petersonの酒バラのブレイクと同じく、2音を交互に3連符で弾くと、スイングの3連符と2拍3連のリズムを複合的に感じやすくなります。


・3小節目のGm7は11th(ド)を含む5度からのアルペジオです。


・9小節目の4拍目はD7を先取りしていますね。


・14小説目のA7は半拍食って入っています。左手のボイシングと合わせたアクセントになっており、音使いとしてはディミニッシュのテンションです。(♭9:シ♭、13:ファ#)


・15小節目はE♭7であり、単純なAm7♭5をセブンス化した後に、裏コードにしたと考えます。ちなみに、ダン・ニマーもここはE♭7でした。

フレーズとしては、リディアンセブンスですので、ルート音E♭の全音上、Fのメジャートライアドが強調されています。


・16小節目は、ベースラインは曖昧ですが、D7でいいと思います。


 

楽譜

・20小節目の最初はC7のソの音に対して、ラ、ファ#、ソと言う感じで挟みこむ、ディレイドリゾルブの形です。


・21~24小節目は既に述べたダン・ニマーのブルースのフレーズと比較してみてください。結構、雰囲気が異なっていて、マイナー感が出ていると思います。21小節の所ではフレージングの骨格が(♭2つの平行短調である)Gmコードの構成音(ソ、シ♭、レ)の様に思われ、それが理由であるように感じます。続いて、23小節目でDm7♭5の♭5である、ラ♭の所がマイナー感を与えるポイントになっているでしょう。(その後Hot Houseになっちゃってますが・・・)

G7は♭9(ラ♭)と#11(ド#)、13(ミ)が含まれ、ディミニッシュと考えられます。


・26小節目のE♭m7-A♭7ですが、良く出てくる進行ですね。大きく解釈すると、F7とA♭7は互換可能ですから(詳細はこちら「有料級ジャズ理論 詳説トライトーンサブスティテューション」)、逆循環の進行です。E♭m7-A♭7はA♭7のツーファイブへの分解です。音使いとしてはただのアルペジオです。


・29小節目は、(ダン・ニマーと違い)Cm7ではなく、C7の響きです。こういう場合は、くどいですが、リディアンセブンスがよく当てはまります。



 

楽譜

・38~39小節ではちょっとブルージーなフレーズになっています。このコーラスではこの後も、このようなブルージーな響きのフレーズがよく出てきます。


・41~42小節も引き続きブルージーな重音フレーズが出てきました。


・45小節目ですが、全部E7と解釈するほうがリーズナブルだと思います。ただ、ラの音は、E7だと一応アボイドなので、最初は11度と考えられるEm7♭5と考えても良いかもしれませんが、あまり細かいことにこだわっても仕方ない例だと考えられます。(左手E7のコードの時に、フレーズではラを弾いているため)


・その後、46小節にアンティシペートする形でA7になりますが、ボイシングは13(ファ#)を含み、右手のフレーズはオルタードです。ファ#のボイスリーディングですが、前のコードのE7の#9のソ(理屈ではファのダブルシャープ)から半音下がった音となっています。

ということで、あまり理論でがちがちに考えても説明が難しい箇所でした。理論も大事だけど、必ずしも実践とは一致しないという例です。


・47小節は先ほど15小節目と同じく、Fのメジャートライアドであるファラドが強調されています。


・48小節の3、4拍の2拍3連は譜面に上手く表せないことこの上ないため、注意深く音源を聞きましょう。


 

楽譜

・49小節目 ハンク・ジョーンズはこのラララド(シ♭)というフレーズよく弾く気がします。


・50~51小節目はD7のソから始まり、シ♭からの半音に続くブルージーなフレーズです。重音が効果的ですね。ソはD7ではアボイドですが、この場合はブルースフレーズですので問題ないフレージングになります。


・54小節目の最初の前打音と3度もブルージーです。


・56小節目はディミニッシュのフレージングでCm7へ解決しています。


・57小節目の3、4拍のミ♭、シ、ドのディレイドリゾルブの流れに注目です。シは(♭のない)ナチュラルですが、ドへ半音アプローチです。


・61小節目は前コーラスとほぼ同じフレーズで、C7です。この音形もハンク・ジョーンズよく出てきますね。


・62小節目のF7は1拍目のアルペジオを除き、オルタードのフレーズです。2拍裏から3拍目の装飾的なリズムは非常に頻繁に出てきます。人によって微妙に音使いが違ったりしますが、音源をよく聞いてこのリズムを感じられるようにしておくと良いでしょう。4拍裏でアンティシペートして解決するのか、B♭M7の頭の1拍目で解決するのかも、人や場合によります。



 

残りは、いわゆる4バース、トレードです。


楽譜

楽譜

11小節目。ファ#ー、ラ、ソという形で回り込んでいることに注目です。

この1拍目の様に、コードトーンに行く前に違う音を強調して、ディレイドリゾルブしてコードトーンに行く場合はよくあります。D7が延長していると考えても良いでしょう。

他には、メジャーのトニックに行く場合には、伸ばす音が#11、解決する音が5度とかですかね。


・18~19小節にかけて、上記と同じファ#ラソの音使いが一瞬出てきています。つまり、よく出てくるフレーズということです。今回はラが伸びていますが。


・20小節までの細かいフレーズとリズム遊びは、雰囲気とフレーズが単調にならないように変化を与えるという発想を学び取ることが重要に思います。


・28小節目の最後の部分のラ♭、ファ、ソで次のC7の5度のソへディレイドリゾルブです。


 

 以上、いかがでしたでしょうか。アイルクローズでは、ジャズに出てくるさまざまなコード進行がバランスよく登場することから、練習曲として非常におススメしてはいますが、あの曲が好みでない人向けに、ちょっと違う視点で「いそしぎ」を扱ってみました。


 やはりアイルクローズに比べると、若干、似た様なツーファイブワンが繰り返し出てくる気もしますが、様々なキーで練習することで色々な曲に対応できるようになるでしょう。(でもやっぱり、これなら、枯葉でも良いのではないか、というものあるし、アイルクローズに比べてコード進行の種類が物足りない感は否めません。)


 さて、今回は二人のピアニストのアドリブを並べてみました。同じ曲でもピアニストによって違うのは当然ですが、それをこのような形で記事にしたのは初めてのはずです。こういった違いが聴く側、学ぶ側としてのピアニストの好みなどが分かれる理由であることは想像に難くありません。


 それでも今回の二人は、オーソドックスで解釈しやすい音使いで、様々なスタイルのピアニストが数多くいるなかでは、かなりタイプとして似ていると言えます。そもそも、ダン・ニマーがハンク・ジョーンズを好きだと言っています。


 「いそしぎ」だけでも探せば他に色々な音源が必ずありますし、私の手元にも、まだいくつか違うものも所有しています。是非、様々な音源を聞いて、自分がどのようなジャズが好きか開拓して頂ければと思います。


今回の記事があなたの役に立てば幸いです



 

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