ジャズピアノ考察 枯葉もどきの曲からアドリブを考える
- 2024年8月23日
- 読了時間: 9分
更新日:2024年8月25日
こんにちは、ジャズピアノ研究室管理人の田中です。
これまで、「ジャズスタンダード「I'll Close My Eyes」型のコード進行が、ジャズの練習に適している理由」でディレイドリゾルブによるアプローチの練習、「ジャズのリズム練習に適したスタンダードのテーマ」でリズムの練習について、記事を書いてきました。
今回、この二つの記事の内容を合体させ、両手を用いた集大成用の楽曲を作曲いたしました!(大げさ)過去の記事は、最後のリンクをご参照ください。
この記事を読むことで、アプローチ、リズムの練習のみならず、ジャズのアドリブについての大切な考え方を理解できるでしょう。
早速ですが、その作曲した曲がこちらです。

「枯葉じゃないのか?」と思ったあなた。残念ながら違います。(意固地)
だって、8小節しかなくて、B部のコード進行もありませんから・・・。
さて、茶番はこのくらいにして、冗談抜きで枯葉は著作権が切れていませんから、枯葉ではないのです。でも確かに、枯葉を意識していることは認めます。
曲のメロディはコードのシンプルなアルペジオから次のコードの3度の音へアプローチしており、左手は典型的なリズムパターンを入れています。モーニンなどで出てくるパターンです。初心者の人にとっては、これを練習するだけで、かなり良いトレーニングになると思いますし、更にキーを変えれば、練習材料として応用が可能だと思います。
上記のように、アルペジオのアプローチやお決まりのリズムも重要な内容ではありますので、是非、記事下部にリンクした方の記事もお読み頂き、あなたの練習に役立てて頂ければと思います。
が、今回の話はそこではなく、この音源からアドリブについて考えて行きたいと思います。
ポイントは3つあります。
一つめは、もしこの曲からあなたが「枯葉」を感じたならば、それはなぜでしょうか?
二つ目は、これが枯葉のパクリだったとして、あなたはこのフレーズ(曲?)を自力で書くことができるでしょうか?
三つめは、この枯葉もどきの一部分を抜き出して、枯葉のアドリブ中や、更には他の曲のアドリブ中に当てはめたら、それはアドリブなのでしょうか?
上記の三つがポイントになる理由は、極論は上記の三つの考え方を拡大解釈、適用すると、ジャズのアドリブの考え方(あくまで考え方)をかなり具体的にイメージできるからです。
まず一つ目です。もしこの曲からあなたが「枯葉」を感じたならば、それはなぜでしょうか?
ジャズのアドリブは、スタイルなどによって異なる部分はありますが、概して曲のコード進行や元のメロディを意識してアドリブを取ります。アドリブだからといって、適当な音を出したり、めちゃくちゃなことをしているわけではありません。
ここで改めて先ほどの音源を思い出して頂くと、明らかに枯葉のあのメロディではないにも関わらず、おそらく多くの人が枯葉を感じずにはいられなかったはずです。しかし、この音源を「枯葉のメロディです」と言って、枯葉を知らない人に聴かせた場合、それは事実ではありません。
それにも関わらず、これが枯葉に聞こえた理由は、枯葉と同じタイミングでメロディのポイントとなる、コード3度にアプローチし、フレーズも元のメロディと非常に似た音型だからだと考えられます。
実は、ジャズのアドリブも(奏者によって相当に)程度の違いはあれ、上記と同じ状態なのです。ジャズのアドリブの場合は、この崩しかたや元のメロディとの類似度合いが、かなり低いだけで、演奏者は元の曲を意識しているはずです。よってアドリブフレーズも、先の音源と比べればかなり分かりにくくなってはいても、あくまでも元の曲に基づいています。
ですから、逆に、もとの曲やコードに基づいていない、メチャクチャや好き勝手は、基本的にルール違反なのです。ですから、ジャズに取り組めば、遅かれ早かれ、テーマを弾いていないのに、テーマや曲のコード進行を感じさせるアドリブに取り組むことになります。それの、第一歩が実は、今回の音源です。
ちなみに、ジャズのファンは、自分もジャズをやる割合が高いそうです。アドリブと言うつかみどころのない音楽から、テーマのメロディやコード進行を感じながら楽しむ。というある種の特殊能力は、自分もジャズを演奏している人でないと、なかなかイメージしにくいからなのかもしれません。
繰り返しになりますが、スタイルや時代の違いによって、元の曲からの類似度合いやフレージングは異なるので、大まかな方針として述べていることをご承知おきください。
続いて二つ目です。これが枯葉のパクリだったとして、あなたはこのフレーズ(曲?)を自力で書くことができるでしょうか?
一つ目で述べたように、この音源をさらに自由に、もっと崩していった先に、よりアドリブフレーズみたいなものに行きつきます。逆に、音源のフレーズは、極めて枯葉のテーマに近い、むしろフェイクの範疇と捉えても良い様なメロディです。
つまり、この簡単なフェイクを自力で書けるかどうかは、アドリブができるかどうかの一つの重要な指標です。もちろん、アドリブにおいては、必ずしも常時コード進行やテーマのメロディを完璧に聴かせる必要はないです。またアドリブは事前に準備したものではなく、その場で紡いでいくものだ。という反論もあるかもしれません。
しかし、メロディに近い、むしろフェイクといえるフレーズを自力で「準備する」ことすらできなければ、「その場」で、「アドリブ」をして、メロディよりはるかに崩れたフレーズでコード進行やメロディを示唆するのが難しいことはお分かり頂けるのではないでしょうか。
最後に三つめです。
三つめは、この枯葉もどきの一部分を抜き出して、枯葉のアドリブ中や、更には他の曲のアドリブ中に当てはめたら、それはアドリブなのでしょうか?
この枯葉もどきをたくさん練習して、ある時、枯葉のアドリブをしている時に、このメロディを引用したとしましょう。(実際はこんなダサいフレーズ弾きたくないですが。)
この行為はアドリブでしょうか?
それではもう一つ、これならどうでしょうか?この枯葉もどきの4~6小節目の部分を、♭二つで演奏されるYou’d be so nice to come home toの8~10小節目(E♭M7、Am7♭5、D7)のアドリブを弾いている時に弾いたとしましょう。または、枯葉もどきの2~3小節目を、You’d be~のラスト3小節~2小節(F7、B♭)にかけて弾いた場合はどうでしょう。これはアドリブでしょうか?
もし上記の二つの例が「アドリブでない」とすると、その論拠は、事前に仕込んでいる。枯葉のテーマをフェイクしたものをコードに当てはめているだけ。といった指摘があるのかもしれません。しかしこれが「アドリブでない」とするならば、ジャズのアドリブは演奏のハードルが一気に上がります。
なぜなら、ジャズはアドリブと言っても、過去の音源をコピーして、それを練習し、自分の中に落とし込み、それを元に音楽を再構築するからです。この再構築の時の拠り所が、コードであり、テーマメロディであり、ジャズにおけるフレージングの一定のルールです。この考え方、手法がパクリやオリジナリティの欠如だと言うならば、モダンジャズ以降のスタイルのジャズをやる人は全員、パーカーのパクリです。そのパーカーですら、レスターヤングのパクリかもしれません。(過激な表現にしていますが、ものの例えです。悪しからず。)
また、アドリブ中にテーマのメロディのフェイクを入れたり、他の曲のテーマを差しはさんだりすることは、決して驚くほど珍しいケースではありません。
今回の例では、話を分かりやすくするために、謎の枯葉もどきを使いましたが、実際は、これが音源の名演奏になるだけで、アドリブを取るときの発想としては上記の流れそのままです。(一応枯葉もどきも、コードに対しても綺麗にフレージングしていますので。)
つまり、ある音源を聞き、それを練習し、自分に落とし込み、アドリブ中に綺麗にサウンドするところで弾く。ということです。
最後に補足として2つ注意点を述べておきます。
注意点の一つ目は、今回は、音使いやフレージングの極めて実務的(と言うのが適切か分かりませんが)な面に焦点を当てています。言い換えれば、物理的な観点といえるかもしれません。
アドリブで何を表現したいとか、共演者や聴衆との意思疎通とか、そういったある意味で哲学的、精神的な部分はまた別の視点になりますので、ここでは述べていません。
注意点の二つ目は、繰り返しになりますが、リズムの重要性はいつも忘れないで頂きたいと思います。リズムへの意識の集中は、音源の名演奏をよく聞き、コピーする時のプロセスに含まれる部分もありますが、いくら音として正確でも、リズムがおかしいと、スイングしません。
最後にまとめます。今回、枯葉もどきを作曲しましたが、この曲を起点に以下の三つのポイントを考えました。
1つ目は、この曲からなぜ「枯葉」感じるか?
2つ目は、このフレーズ(曲?)を自力で書くことができるか?
3つ目は、この枯葉もどきの一部分を抜き出して弾く場合、アドリブといえるのかどうか?
その回答、解説として、
1つ目は、適切な音へのアプローチとメロディの音形によるもの。
2つ目は、書けなければ、アドリブでコード進行を表現するフレージングを弾くのが難しいと考えられる。
3つ目は、アドリブと言って良いと考えられる。今回は単純化するために枯葉もどきを用いたが、ジャズのアドリブ習得の基本的な流れは、枯葉もどきがジャズジャイアントの音源になる。
ということになります。
ここまでお読みになり、特に2番目については「じゃあどうすればフレーズを書けるようになるんだ」と思われた方がいらっしゃるかもしれません。以下の記事の練習内容をお読み頂ければ、その基本的な考え方と、更にリズムについても理解できるかと思いますので、併せてご活用頂ければと思います。
「ジャズのリズム練習に最適な曲とは」はこちら
「ジャズスタンダード「I'll Close My Eyes」型のコード進行が、ジャズの練習に適している理由」はこちら
「枯葉」のボイシング例はこちら(YouTubeリンク)
尚、伴奏音源のドラム、ベースはi Real Pro©2009-2004 Technimo LLC.
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