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ウィントン・ケリーのI'll Close My Eyesのアドリブについて解説します

  • 2024年8月31日
  • 読了時間: 12分

 

  こんにちは、ジャズピアノ研究室管理人の田中です。


 「ジャズスタンダード「I'll Close My Eyes」型のコード進行が、ジャズの練習に適している理由」の記事にたくさんアクセス頂いているので、アイルクローズの音源としておそらく最も有名なブルー・ミッチェルのテイクで、ウィントン・ケリーが弾いているアドリブフレーズの簡単な解説をすることにしました。


 内容としては理論的な解説が多めですが、実際のリズムなどは各自音源をご確認下さい。


 コード進行は黒本に載っている進行と概ね同じとします。その他、ベースラインもふまえた細かいバリエーションは適宜、フレーズの説明しながら補足します。解釈の違い等もあると思うので、予めその点はご了承いただいた上でお読みください。


また、左手を譜面にすると手間が跳ね上がるので、省略します。


※別ページやタブ等で開いて、画面を切り替えながら読んだ方が良いかもしれません。


楽譜
1コーラス目(1~16小節)
楽譜
1コーラス目後半(17~32小節)
楽譜
2コーラス目前半(33~48小節)
楽譜
2コーラス目後半(49~64小節)
楽譜
3コーラス目前半(65~80小節)
楽譜
3コーラス目後半(81~96小節)


・1~2小節:特記事項なし。Fメジャースケールです。


・3~4小節:いわゆるDm7へのツーファイブ進行ですが、ウィントンは曲を通して、このツーファイブをA7(♭9)のディミニッシュで弾いていることが多いです。A7の頭までスケールで上がっているだけで、ソ#はルートへの半音アプローチになります。


・5小節:11度のソから3度のファへ解決。


・6小節:ベースラインはG7の3度のシに行っているようなラインです。アドリブフレーズとして、教科書的にはG7がCm7へ行くときは♭9系のサウンドですが、ウィントンは、(後でも出てきますが)ラ(9度)を♭しません。だから、この小節をDm7で解釈しているのか、G7で解釈しているのか分かりにくいです。左手をよく聞くと分かるかもしれません。だから本来、左手もちゃんと音を拾うことが推奨されます。


・8小節:8小節のF7はB♭Mを先取りして、メジャー3度のレへ半音下からアプローチしています。


・9小節:F7の続きのような状態です。


・10小節:B♭m7を経由してE♭7と考えても良いと思います。その場合は、ファは5度になるでしょう。テンポも速めですので、あまり細かいことを気にしないで、E♭7一発で、リディアンセブンスと考えても良いでしょう。その場合は、ファは9度で、ドは13度になります。どちらかというとポイントは、次のFM7の3度のラに、ソ#(ラ♭)から綺麗にアプローチしていることと言えます。


・11~12小節:基本的にはFメジャーのスケールで、アルペジオが入ったりしています。


・13小節:セオリー的には、Am7へ進行するE7なので、♭9系のフレーズになります。が、セオリーは二の次で、ここは、ルート音であるミの全音上のF#メジャートライアドを弾いています。ということで、サウンド的にはリディアンセブンス的になっています。つまり、13度のド#、#11度のラ#、9度のファ#というテンションと、セブンスのレということです。


・14小節:そのままシンプルにスケールの様に下がっています。


・15~16小節:いわゆる逆循環の進行で頭に戻る所です。15小節目の4裏のミの様な、ちょっとした裏入りの有無がスイング感に雲泥の差をもたらすことがあります。実際、試しにこの音を抜くと、かなりスイング感が物足りなくなると思います。16小節は「典型的なバップフレーズ」のようなカッコイイお決まりフレーズではなく、シンプルなものです。


4裏でファを弾いた時にそこまで解決しているように聞こえないのは、その後すぐに、17小節目でド、シ♭、ソ、ソ#、ラ。という常套句で、3表に解決しているので、そちらの解決感が圧倒的だからでしょう。ちなみに、ソの音は前の音のシ♭と被っており、若干ゴースト化しています。


・18小節:2拍目にファにアプローチ。3表にアプローチしたい音(ラ、Fの3度)の半音下からアプローチ。こういった、裏にターゲットノートを置くフレージングはウィントン・ケリーがよく弾きます。


・19~25小節:「柔道から考えるジャズピアノのアドリブ練習の原理原則」にて既に説明済み。一部、追記、補足しつつ再掲します。

A7のフレーズがDm7に解決しているのは、Dm7の1小節目の3拍目の表です。ここではコードの5度にディレイドリゾルブしています。つまり2拍目までは、A7のフレーズが延長されていえます。そして、Dm7のフレーズは11度を含むアルペジオで、9度で終わるという音使いで、少しトリッキーです。その後、4拍裏にでもファを弾けば、だいぶ解決感が強まると思いますが、それを弾いていません。代わりに、次の小節の1表の左手のバッキングで補っているように思います。両手の共同作業です。


 続いてF7からB♭M7への解決ですが、B♭M7の3度(レ)に解決するのは1拍裏です。1拍目の表には経過音で短3度にあたる音(ド#≒レ♭)が来ています。この1拍表の音も、教科書的にはB♭m7に解決する音使いと言えます。


・26小節:ベースラインはE♭7。フレーズはB♭m7と考える方が、アルペジオに近くて考えやすいでしょうか?要は、細かいことはどちらでもいいわけです。どちらも同じです。ラを♭してからソにしたいか(ツーファイブに分解したいか)、最初から、ずっと♮のまま(E♭7)で考えたいかというところですが、どちらか言うと、次のFM7に綺麗にアプローチする方が大事だと思います。


・27~28小節:特にいわゆるフレーズ弾いています感のあるものではありません。


・29~30小節:同じく、音使いはシンプルでただ、スケールの音を弾いているだけ。と言えば弾いているだけ。こういったものをカッコよく弾くのが難しいです。


・31~32小節:左手は31小節の4裏と32小節の3表に入っています。このような、右手の合間を埋めるバッキングをよく聞きましょう。32小節のピックアップ的なフレーズは、テーマのメロディを意識したものでしょうか。イントロと同じ音形でもあります。


・33~34小節:引き続き、テーマメロディのフェイクフレーズが続きます。


・35小節:フレーズだけ見ると、Em7(♭5)のから2小節A7一発で考えられます。特に35小節目のスケールはオルタードの音と解釈できます。ファはA7の♭13なので、ディミニッシュにはなりません。


・36小節:シ♭、ソ、ソ#、ラはディレイドリゾルブの音形で、ルート音であるラへのアプローチです。3裏からのミ、ソ、ファは次の37小節のDm7の9度のミにまっすぐにアプローチしていますが、こういうフレーズが、所謂教科書通りではないフレージングなのです。37へ続きます。


・37小節:1表に9度のミ、1裏に3度のファにアプローチしています。その後アルペジオ。18小節でも少し記述したが、こういう表にターゲットノートを置かないフレージングは、初心者には注意が必要です。

ちなみに、36~37小節にかけて、本当に教科書通りにするなら、以下の譜例でしょう。これにより、37小節の1表に、Dm7の3度にアプローチされます。


楽譜

・38小節:Dのブルーススケール的な響きと思われます。詳細不明。DマイナーはFメジャーの平行短調なので、FメジャーのキーでDのブルーススケールを使うというのが、一応、理論的な説明です。


・39小節:9度の音レからのアルペジオの後、レ♭はB♭ブルーノートスケールの音。と考えるのが良さそうです。Cm7-F7-B♭M7はB♭メジャーへ転調していると考え、B♭のブルーススケールの音であれば、ブルージーに響きます。


・40小節:8小節目と似ているフレーズです。B♭Mを先取りして、メジャー3度のレへ半音下からアプローチしています。


・41小節:40小節の続き。4拍目は42小節目の頭のシ♭に向けて半音(クロマチック)アプローチです。


・42小節:アプローチされた音はE♭7の5度でも良いし、毎度ながら、B♭m7のルート音でも、考えやすい方で良いでしょう。繰り返しですが、それよりも、3拍表からのド、シ♭、ソ、ソ#、ラというディレイドリゾルブで綺麗にFM7の3度にアプローチしている方が重要ポイントです。


・43~44小節:43小節の3拍表からのシ♭、シ、レ、レ♭、ドというのも割とよく出てくるフレーズです。そしてまた出てきた、「どしそそら」。


・45小節:E7のアルペジオに近い音形ですが、少し変形が入っています。4拍表のソ#に向けて、2拍裏からディレイドリゾルブのようなアプローチで、ファ、ラ、ソ、ソ#。


・46小節:ソは理論的には#9で「ファのダブルシャープ」。ちょっと解釈が難しいですが、少なくとも、1拍表をソ#にして弾くと、マイナー感が非常に強くなります。単にFメジャースケールと考えてもいいかもしれません。それよりも、2、3、4拍の裏のゴーストノートがスイング感を出しています。こういうのが、「カッコイイ音使い」とか「スケール」よりも大事なことです。


・47~48小節:特にフレーズらしいフレーズではないです。47小節目の右手の休符の所の3拍目、4拍目裏のバッキングも大事。4拍からシンコペーションしているのがかっこいいですね。


・49~50小節:モチーフ展開みたいなフレーズになっています。


・51小節:1拍と2拍裏の左手のタイミングをよく聞きましょう。


・52小節:51小節からまたディミニッシュのフレーズで上がっています。


・53小節:1、2拍目は43小節目のFM7で出てきた(シ♭、シ、レ、レ♭、ド)アプローチと同じ音形です。今度はDm7の3度のファにアプローチです。


・54小節:ずっとDm7が続いているので1拍表は11度ソで1拍裏に3度のファにアプローチするという、また裏拍でのコートドンへのアプローチパターンと考えて良さそうです。

3拍目のラから55小節目の頭のCm7の5度のソに対してディレイドリゾルブになっていると考えられます。つまり、ラ、ファ、ソです。


・55小節:3拍目のファ、レ、ミ♭、も3度のミ♭へのディレイドリゾルブです。


・56小節:2拍目からのフレーズは典型的なオルタードフレーズ。1拍目は♭13(レ♭)へのディレイドリゾルブで、レ、ド、レ♭。3拍目が装飾的になっているのはウィントンの特徴で同じ音を連打するフレージング。こういった装飾音は、下手に自己流でやって、適当な所に入れると大変ダサくなりますので、ちゃんと真似した方が良いです。


・57小節:また出てきました。1裏からの3度へのアプローチ。あと、4裏のド#(レ♭)があるので、コードの変わり目がはっきりしない音使いとなっています。


・58小節:E♭7です。忘れた頃に、もう一度。スケールはリディアンセブンスで良いでしょう。ド、ラ、シ♭という、ディレイドリゾルブ的な動きが良いです。


・59小節:特記事項はなし。


・60小節:Gm7の3度のシ♭へ向けたラ、ド、シ、シ♭の音形で、ディレイドリゾルブしていますが、それを八分音符で弾いています。


・61~64小節:Gm7のコードトーンをフレージングした後、ペンタトニック的なフレーズ一発でFM7へ解決。レ(6度)なので、むしろ音使い的にはF6と言えそうです。63小節の3裏、64小節の1、3表、4裏の左手が右手の合間を良い感じに埋めています。


・65小節:8小節目や41小節のB♭Mでも出てきた、3度(ラ)への半音アプローチフレーズから、3拍目にはブルーススケール的な音使いへ。


・66小節:また「どしそそら」の後、4拍目には67小節からのディミニッシュスケールを先取り。


・67~68小節:A7一発で捉えて、ディミニッシュスケールそのままです。


・69~70小節:やはり11度のソが好きらしいです。


・71~72小節:Cm7では11度のファまで含むアルペジオ。F7ではまた、8小節同様に、B♭の3度にアプローチするようなフレージング。


・73小節:同じ音使いがそのまま続いています。


・74小節:Gのブルーススケールの様な音使い。といっても、E♭7のリディアンセブンスと考えられなくもない。ちなみに、E♭7というのは、B♭のブルースの4度なので、音使いとしてブルージーになるわけです。

同時に、GマイナーはB♭メジャーの平行短調ですから、GブルーススケールがB♭メジャーの時にハマるわけです。

どちらで考えても良いですし、考えやすい理屈で考えるのが良いのではないでしょうか。これが、理論と実践を上手く両方で考えていかないといけない理由ですね。


・75~76小節:75小節目は76小節目の頭の3度のラにアプローチするピックアップです。76小節はまた「しそそら」が出てきました。「ド」がありませんが、「らしそそ」も「どしそそ」もラにアプローチする上で大差ないですね。


・77~78小節:77小節はアルペジオを8分音符で弾いています。78小節のド#はマイナーに進行する13度なので理屈から行くとディミニッシュですが、もはや細かいことは気にしなくていいと思われます。


・79~80小節:79小節の3拍表裏、80小節の1表、2裏のバッキングからアドリブも大詰め。


・81~82小節:3度のラへの半音下(ソ#)からのアプローチをひたすら繰り返し盛り上げています。すごいフレーズ。


・83小節:また同じく、Em7♭5というより、A7一発で捉えているようなディミニッシュです。


・84小節:A7の♭13(ファ)に行くので、ここは理論的にはオルタードになります。3表のラから、85小節目のDm7の3度へ半音でアプローチ。


・85小節:3拍目からのソミファもディレイドリゾルブ。


・86小節:G7のフレージングになっています。3拍目の3度のシに向けてド、ラ、ラ#、シというディレイドリゾルブの後、Cm7の5度のソに向けてラ、ファ、ファ#、ソでまたディレイドリゾルブ。Cm7へ向かうG7は、理論上は♭9でラが♭しますが、ここではしていません。理論があくまで指標であるという良い例でしょう。


・87小節:特になし。


・88~89小節:ディミニッシュスケールで3拍目まで行き、3度のラからは♭9(ソ♭)を含む、ビバップの典型的アルペジオ。ラ、ド、ミ♭、ソ♭。89小節の2拍目まではみ出して、3拍目でB♭M7の5度へ解決しています。


・90小節:アルペジオの音使いとしてはB♭mですが、ラが♮なので、理屈上m7ではないです。本当に細かいことはどうでも良くて、E♭7でもほとんど同じです。重音を使って最後にひと盛り上げ。


・91小節:1拍遅れて、2拍目に3度のラに解決。


・92小節:またラ、ド、シが出てきました。Gm7のシ♭へのディレイドリゾルブ


・93小節:コードトーンを八分音符で弾いています。


・94小節:ペンタトニックで4裏に食って解決しています。


・95、96小節:Fブルーススケールでアウトロ。ペットへソロを渡す。


・総評

 私の勝手な印象ですが、もちろん、3コーラス目の後半の怒涛の盛り上げなど、さすがの名演ですが、そのフレーズをそのままコピーして、自分のものにして自分のアドリブでカッコよく弾けるかは別物だと思います。随所にディレイドリゾルブやクロマチックアプローチなどの基本的な音使いが見られる一方で、これまで説明してきた通り、それらがコードの4拍ごとの変わり目などに綺麗に一致して登場しているか。というとそうではないことばかりです。


 また、例えば以下の譜例の様な、「いかにもバップフレーズ」というフレーズも少なく、実は、シンプルな音使いをリズムで魅せていることも多いといえます。

(15~16、29~31、40~41、47~48、61~63、77など)


 こういったフレーズは、この曲のテンポの軽快さと、アドリブの全体的な構成、ウィントンのタッチにより活きている所が大きいと思われます。


 ただ、探せば42小節のようにそのまま上手く拝借できそうなフレーズもあります。また、フレーズそのものは使わなくても、13小節目の様に、♭9でしか弾く発想がなかったところ、リディアンセブンスの響きも良さそうだ。あるいは、Em7♭5-A7はA7一発で弾いてしまえ。という、考え方を真似ることもできるでしょう。


<いかにもバップフレーズな例>

楽譜
Fメジャーでの逆循環でのフレーズ例
楽譜
B♭M7へのツーファイブワンフレーズ例

 あくまで上記は私の感覚なので、自分がどういったフレーズならばうまく弾けそうか。カッコいいと思うか。といったことも考えながらこちらの情報を参考にして頂ければ幸いです。


今回の記事が役に立ちましたら嬉しく思います。


つづきの記事

「ハンプトン・ホーズのThere will never be another youのアドリブ解説」はコチラ


 

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