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ジャズピアニストが曲を聴いている時に考えていることについて ~メロディとハーモニーの独立~

  • 2024年6月21日
  • 読了時間: 15分

更新日:2024年7月7日


 

  こんにちは、ジャズピアノ研究室管理人の田中です。


 昨今、インターネットを使ってよく探すと、無料で非常に有益な情報を入手することができるようになりました。このサイトも頑張らねばなりません。


 最近見つけた情報で、高橋範行氏という大学の先生が書いた論文に非常に興味深い記載がありました。そこから2つポイントを絞り、その内容を踏まえて私なりにジャズピアノ練習のお役立ち情報を提案するため、今回の記事を書くことにしました。


 この記事を読み、クラッシックピアノ演奏者とジャズピアノ演奏者の音楽の認知の違いを理解することで、クラシックピアノ経験者でジャズピアノ初心者の人が、ジャズに取り組むに時に意識すると良さそうなポイントが分かるでしょう。


 早速ですが、そのポイントを以下に記載します。完全な引用ではありませんが、それに近い形であることをはじめにおことわりしておきます。


<その1> 

 ジャズ演奏家とクラシック演奏家を対象にした楽曲聴取試験について。ジャズやクラシックの短いピアノ楽曲を演奏家に聴かせた際に、その時の思考や印象的な部分等について、自由記述するように求めた。

 結果、ジャズ学習者ではリズムやハーモニーといった音楽構造そのものに触れる記述が多かったのに対し、クラシック学習者では演奏者のタッチや楽曲から受けた印象など、音楽構造に直接的に関連しない記述が多いことが明らかとなった。


<その2>

 同じくジャズ演奏家とクラシック演奏家を対象に、メロディとハーモニーを備えた楽曲からハーモニーを独立して認知する能力に関して調査した結果、ジャズ演奏家の方が、正答率が高かった。


というものです。


 この結果の考察の要旨としては、

 「ジャズは一定のコード進行(ハーモニー)の枠組みの中でメロディを即興的に演奏することを求められる音楽であり、固定化されたハーモニーの構造の上に載せられるメロディの可能性は無限に近いと言える。従って、メロディとハーモニーの固定的な関係性は比較的希薄になる。ジャズの学習者にとって、まずは主要な枠組みであるハーモニーを把握することが重要であると考えられる。」

とのこと。


 また、一方で

 「クラシックでは多くの場合、既存作品の適切に表現を付与して演奏することが求められ、そこでは作品のメロディとハーモニーの構造が作品として一体化していることが不可欠。よって、両者を独立した存在として認知すべき必然性が低く、そのような認知技能が獲得されにくいと考えられる。」

とのこと。


 あくまで私の主観で抜粋、引用していることもありますので、補足しておくと、誤解して頂きたくないのは、これはジャズ演奏家とクラシック演奏家の優劣とかを議論するためのものではありません。異なる音楽ジャンルを学習することで、音楽認知の発達が異なる様相を呈する可能性を示唆しているということです。


 これにより、学習者にとって有益な指針となるはずであり、多様な音楽の聴き方を探る上でのヒントになるだろう。ということです。



 いかがでしたか?更に詳しく知りたい方は、この文章の末尾に文献情報を載せておきますので、各自、検索してご参照下さい。


 ここからは、以上の内容に関して、私の考えや所感を述べます。まず読んだ第一印象としては、「確かにその通りかもしれない。」です。私自身、ジャズを始めて随分長くなったため、全く意識していませんでしたが、いつの間にか随分とハーモニーを分析的に聞くようになったと思います。


 例えば、多くのJ-POPで「良い曲」と呼ばれるような、カノン進行をサビなどで用いた曲は、多かれ少なかれ同じに聞こえます。他に循環や逆循環が登場すると、「循環だ」と思うようになりました。知識として、この曲のここは、こういうコード進行だと知ってしまったパターンもあります。


 クラシックの曲でも、5度圏の進行らしきものを「検知」すると、やっぱり響きが気持ち良く聞こえます。正直、大して相対音感が強いわけでもなく、耳も良くない自分ですらそうです。もちろん、全ての曲で的確に検知することはできませんが、そういう聞き方が、無意識のうちに増えていたということです。


 しかし、考えてみれば、昔はそういった聴き方はしていませんでした。というより、できなかったというのが正しいです。それは当然の話で、音楽理論の知識もなく、コードも分からない状態でカノン進行も循環もありません。コード知識がなくとも、楽譜を買ってきて、買った楽譜を読み、CDとかを聴いて、自分なりの表現でピアノを楽しむことはできました。


 実は、今回、特に注目したいのがこの部分です。私はこの時、楽典の知識は皆無で、楽譜に書いてある音を読譜して、ある程度技術的にどうにかなる曲であれば、弾いて楽しんでいたということです。要するに、音楽の構造を分かっていなくても弾けちゃった。ということです。もちろん楽譜を読めること、楽譜の指示に従って、ピアノを演奏できることは、それだけでも素晴らしいことです。


 ここで先ほど紹介した論文に記述されていた、「クラシックの演奏家は、楽曲からハーモニーを独立して認知する能力が獲得されにくい」という部分を思い出して頂きたいのです。一流の音楽家が、楽典を勉強せず、楽譜の音と指示記号だけを追いかけるだけの演奏しているはずありません。


 冒頭に紹介した論文のクラシックピアニストの対象レベルはコンクール入賞経験者や大学の講師レベルの人たちです。試験に使った問題の難易度は分かりませんが、コンクール入賞者や大学講師が曲からハーモニーを聞き出せないとは思えません。

 

 しかしそれでも、ジャズの演奏家(こちらもプロ、セミプロレベルを集めています)に比べれば、メロディとハーモニーは独立して検知できていないのです。


 この実験はアマチュア音楽家を対象にしていませんが、一般的なプロとそうでない人の能力の違いを考慮すれば、アマチュアジャズピアニストがメロディとハーモニーを独立して検知する能力は、クラシック演奏家にはかなわない可能性が高いです。


 更に、もし愛好家レベルのジャズ演奏家とクラシック演奏家を対象に同じ調査を行えば、プロレベルで調査した結果が全体的に下方修正された結果になることが容易に予想されます。クラシックアマチュアにおける検知能力は高いとは言い難い評価されることが予想されるということです。


 この大きな要因として私は二つの大きな要因を考えています。一つはクラシックの和声理論が難しいこと。こちらは後述します。


 そしてもう一つが、日本の音楽教育が手本としている音楽教育が、まだまだクラシックに偏っているということです。(ピアノ経験者も大半、ほとんどがクラシックです。)作品の再現を中心とするクラシックにおいて、最悪、楽譜が読めればピアノを弾くうえで致命的な問題になりません。また西洋芸術の価値観の中に、即興演奏とは準備が不要でその場限りのもの。といった見方もあり、教育に用いるには不適切であるという捉え方が多少なりともあります。


 結果、楽譜に書かれた演奏情報の再現、楽器の正確なコントロール能力のテクニック習得に偏っているということです。しかし、様々な音楽ジャンルを見渡した時、即興要素が全くない音楽の方が、実は珍しいのです。


 即興というのは、その場の音楽にリアルタイムに反応するための、音の聴き取り、分析、反応など、再現音楽とは質の異なる創造力が必要だと指摘されています。そして、かつてはクラシック音楽でも即興は行われていましたし、名を残している大作曲家は皆即興の名手だったと言われます。


 尚、この辺りの「音楽の創造性ってなんだ?」といった議論についても各方面で展開されていますが、ここでは以上に留めます。



 話を戻すと、クラシック経験者でジャズに行き詰っている人は、自分はその気になれば「ハーモニー」をメロディから独立して認識できるか否か。更にややこしいことを言うと、ジャズにおいて特徴的な非和声音(テンション)を含めて、音楽構造を機能和声的に理解できるのか。という発想を持つのが一つの突破口になるかもしれません。


 当然、耳の良い人や、楽譜に頼らない音楽構築が可能な人は世の中にたくさんいますし、私もそういう人を知っています。これをお読みのあなたが、「自分はそんなことできる、失礼な。」と思われた場合は釈迦に説法で恐れ入ります。その場合は、この記事の前半部分を通してジャズピアノとクラシックピアノを演奏する人の音楽認知傾向の違いを理解して頂き、今後のジャズの練習に取り組む際のヒントにしてみてください。


 また、いつもながら、「今自分なりに楽しくピアノを弾いているので、それで満足しています」と思われた方に関しては、私はそこについて何か意見をする立場でも筋合いでもございません。


 それでは改めて、既成の楽譜からハーモニーを独立して認知する発想を考えてみましょう。例としては、ベートーヴェンの悲愴ソナタの第2楽章の冒頭の部分にしたいと思います。(オリジナルの楽譜は検索でいくらでも出ますので、それを参照願います。)併せて、上記で述べた、クラシック理論が難しすぎる話も回収したいと思います。

 


ベートーベンの悲愴の楽譜

 まず、上声のメロディを抜き出して、それにコードを振りました。内声も重要な役割を果たしていることは承知してはいますが、通常、悲愴の第2楽章といってイメージするのはこの旋律だと思うので、これで話を進めたいと思います。


 これが、ジャズでよく見るリードシートで、簡単なメロディとコードだけが書かれているだけの状態です。ベースラインはコードのルートではなくコードトーンが選択されている場合があるので、その場合はオンコード(スラッシュコード、〇/□)とすることで、ベース音を表現しています。


 あなたが悲愴を弾いたことがあるかは分かりませんが、このリードシートから、悲愴の響きを再現できますか?挑発的な質問に感じたら恐縮ですが、概してジャズをやっている人は、こういった発想でも音楽を捉えているということをイメージして頂きたいというだけですのでご了承下さい。


 そのリードシートからの音楽の再構築の一例として、以下の譜面を挙げてみます。



ベートーベンの悲愴の楽譜

 なんだ、ほとんど元々のアルペジオを和音にしているだけではないか。と思われるかもしれませんが、それは発想が逆なのです。私はあくまで、悲愴の和声を元にしたリードシートから、コードを付けただけです。ついでに少し遊び心を働かせて、2番目のE♭7には9thの「ファ」を入れました。あと、3小節目のFmはセブンスを含む方が、響きが豊かになると思って、勝手に「ミ♭」を入れてFm7にしました。これらのアレンジが、厳格な和声理論から許容されることなのかどうかは分かりません。ただ、少なくとも、FmよりはFm7の方が、確実に響きは豊かです。


 もちろん、これを、クラシックのコンサートで弾くことは許されません。しかし、ベートーヴェンに敬意を持ったうえで(持ってない人なんています?)その気になった時にこういうことができるのかどうかは、とても重要な違いだと私は考えています。(こういう時だけ、聞いたこともないビリー・ジョエルの威を借りるのをやめなさい。)


 ここでもう一つの要因である、クラシックの和声が難しいことが、アマチュアピアニストの音楽構造の理解が進まない原因になっているのではないかという点について記載します。


 以下の説明は、私が考えるクラシックの和声理論とコード理論それぞれのメリット、デメリットの整理を目標にしています。この内容を理解することで、アマチュアピアニストにとって、より親しみやすいと考えられるコードに親近感を持つことができるのではないか、と考えています。


 予めおことわりして予防線を張っておきますが、私は専門的にクラシックの和声や楽典を学んだことは一度もありません。よって、以下は主観的な内容が増える可能性がありますが、なるべく根拠のある内容を記載し、読んでいる方の納得を得られるように努めていきます。


 和声法は対位法からの変遷過程から生まれた技法で、混声四部の編成が用いられます。各成分の動きを観察し、声部同士の関係を和声の面から捉えていきます。和声記号では調性を元に度数で表記され転回形を厳密に区別します。


 そのため、調性を理解し、各和声の機能や声部の連結を考える上で、非常に有効です。しかし、和声進行が複雑になると、記号を実際の音に素早く変換するのが難しくなります。

一方、コードは実際の音が記載されるため、和声記号に比べれば、調性や機能に関する知識が乏しくても、即応が可能です。


 当然、この二つはメリットデメリットの両面があるわけですが、音楽構造を素早く簡便に理解するという視点からすると、上記の通り、クラシックの和声記号はデメリットが大きいです。そして、そのデメリットはコード知識の簡便さによってかなり補える。と考えられます。


 コード表記の大きなデメリットは声部の関係、連結を正しく把握できないことですが、ボイシングの勉強により、そういったボイスリーディングは習得が可能です。もっとも、こういったボイシング自体が、和声学を学んだ人が考えた音の配列の可能性もありますが。先人の発明は使えるところは使っていきましょう。


 また、調性の理解が乏しくても絶対音的にコードを弾くことは、コード機能や音楽構造の理解の面からはデメリットになりますが、コード進行、特にジャズにおいてはツーファイブワンや循環、テンションコードといった「必殺技」で、比較的容易に理解できるようになります。


 コードも初心者にとって同じく難易度が高いという反論があるかもしれませんが、和声は転回形を区別している時点で、実は和音の構成音を把握する必要があります。それならば、コードネームで固定された音が分かっている方が、調性の理解が進んでいない初心者にとって音を把握しやすいと考えています。


 つまり、和声理論は、自らがクラシックのような緻密な作曲をしたり、複雑な楽譜を時間をかけて分析する場合に非常に有効ですが、演奏における即応性や、習得難易度と言う点では引けを取るということです。よって、自習や演奏への応用が困難であり、かなりの確率で指導者が必要などの制約が重なり、アマチュア音楽家で普及しにくいのではないかと考えています。また私の知り合いでも、和声を習っているけど、それで即興とかができるようにはならなかった。という人もいます。


 他には、人間がEm7♭5とEφ7(“ファイ”で代用しています)というコードを脳で処理する際、後者の方が素早く処理ができます。このわずかな違いでも、後者の方が楽に反応できるのです。そこで、以下のコードと和声記号の表記を比較してみてください。


悲愴のコード進行

 

 上記の「必殺技」を少し学べば、E♭7がA♭メジャーのキーにおけるⅤセブンスであって、A♭△7に解決するとか、B♭7がE♭に解決するのはすぐに分かるようになります。その上で、♭4つである「変イ長調AsのⅤ度に対するⅤ7の第二転回形」が「Ⅴ」に解決すると言うのと、「B♭7/F」「E♭」と言われるの、すぐに分かるのはどちらなのかは明らかです。


 その他、根音の動きの追いやすさなども含めて、コードと和音記号も是非比較してみてください。比較的分かりやすい、Ⅰ度とⅤ度を行ったり来たりしているだけでもこの違いです。もっと複雑な部分転調などが現れた場合、その差は更にはっきりしたものになるでしょう。


 もちろん、私がクラシックの楽典を勉強していないから理解が及んでいないだけで、そこには上記以外にも様々な有効性があるのだと思います。しかし、多くのポピュラー系の音楽やバンドでの演奏において和声記号ではなく、コードを用いた表記を採用していることからも、少なくとも、演奏に主眼を置いた時にはコードのメリットが大きいと言えそうです。こういった違いを理解して、最終的には自らの目的や興味などに応じて、自分なりの学習を進めるのが良いでしょう。


 尚、ここまでの文章で、クラシックとジャズの違いを際立たせて記載しているため、対立構造をあおっているように感じられた方もいらっしゃるかもしれませんが、決してそうではありません。ジャズも、西洋音楽の理論を元にした発展をしていますし、エヴァンスがクラシックから影響を受けていたことは有名な話です。


 多くのジャズピアノ演奏者は、楽器の基礎演奏技術の習得の際には、クラシックピアノを学んでいます。しかし、やはり最終的に演奏となるとその認知機能に一定の違いがあることは否めませんので、そこを理解することで、ジャズピアノの演奏のためにどうするのが良いのか考え、その情報を発信している次第です。


 では最後にそれではジャズのリードシートにおいて、どうやってメロディをコード付け(ハーモナイズ)していくか、と言う点について簡単に言及しておきたいと思います。基本的には、バラード、音数の少ないメロディをスプレッド中心にハーモナイズする場合の考え方です。曲はMy Foolish Heartの最初の部分を例にします。

楽譜


①ルートを付ける


楽譜



②ガイドトーンを足す


楽譜



③テンションを足す。


楽譜


おまけ(ハーモニーのみ)


楽譜



 最後にまとめますと、ジャズの演奏家はメロディからハーモニーを独立して検知する能力が発達している。という調査結果から、ジャズの演奏に取り組む場合はその能力を意識して練習に取り組むと良いでしょう。


 特に、クラシックピアノの教育は、楽譜の再現や楽器をコントロールする能力に偏っている部分があり、即興やコード進行に対する理解を深めることは、ジャズをはじめとする、他の音楽に取り組む際の視野を広げることに役に立つはずです。


 また、ハーモニーの理解の際に、和声理論やコード理論を学ぶのが主な取り組みとなりますが、それぞれのメリットデメリットを理解し、自分のやりたいことに適した方法を選択すると言いでしょう。リードシートからの基本的な和音付けの手順としては、①ルートを付ける、②ガイドトーンを足す、③テンションを足す。です。


<主要参考文献>

・ジャズ音楽家の音楽認知技能 高橋範行

<その他参考文献>

・ジャズ音楽家のテンションハーモニーの認知技能 高橋ら 音楽知覚認知研究Journal of Music Perception and Cognition Vol. 23, No. 1, 19-34, (2017)

・「器楽演習」授業における即興演奏活動導入の可能性 堀上みどり


ジャズピアノ研究室 管理人

田中正大


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