I'll close my eyes伴奏実践編
- 1月11日
- 読了時間: 9分
更新日:1月12日
こんにちは、ジャズピアノ研究室管理人の田中です。
これまでウィントン・ケリーをはじめとしたピアニストのI’ll close my eyesのアドリブソロのフレーズ解説をしてきました。(記事はこちら:ウィントン・ケリー、ハンプトン・ホーズのアナザーユー、トミフラ)
今回は、ウィントン・ケリーが、フロントのブルー・ミッチェルのソロ裏で弾いている伴奏(バッキング、コンピング)を1コーラスだけ紹介します。(YouTube)
尚、頑張って音を拾ったつもりですが、何せ私の耳がそれほど良くない上、残念ながらソロ裏のピアノなんてろくに聞こえず、必ずしも正確に耳コピできていない可能性を十分に理解した上でお読みください。
そもそもなんで1コーラスしか掲載しないかというと、1コーラスお腹いっぱいになったからです。最後にトミフラの伴奏も半コーラスおまけで付けたので大目に見てください。
さて、ジャズピアニストのバンドでの一番の役割と言えば、ピアノトリオなどを除いた編成では、基本的に伴奏ではありますが、上記の通り、伴奏の耳コピはアドリブソロのそれとは比べ物にならないほど難しいわけです。(と、少なくとも個人的にはそう思います。)
更に、ピアノというその気になれば一人で音楽を完結させられるような楽器で、アドリブソロの腕を磨きたくなる本能や自然な欲求に反して、伴奏の練習をするわけですから、なかなか食指が動きにくい領域であると思うのは私だけでしょうか?
そういうわけで、以前のこちらの記事(ビッグバンドからジャズをやり始めて良かったと思うこと)ではビッグバンドからジャズに入ったことで、半強制的に伴奏が練習のメインとなり、自然にピアニストの重要スキルの上達につながった「ありがたみ」について記載しています。
ついでに言えば、私が主に伴奏を学んだカウント・ベイシーは、スイング時代から既に4拍のパルスでない裏入り等の伴奏を開拓し、バップ以降のピアニストの伴奏に影響を与えた先駆者として知られています。時期にもよりますが、概して彼の伴奏は比較的音数が少なく、フレーズの隙間に的確に音を放り込むことが多いので、ジャズ入門者の私でも聞き取りやすかったというのもあるでしょう。もちろん、全てを完璧に聞き取っていたわけではありませんが、少ない音数ながら、つぼを抑えたスイング感を学ぶのに適していたのかもしれません。(そうなると、お次の記事のネタはベイシーの伴奏でしょうか・・・)
さて、前置きが長くなりましたが、今回のウィントン・ケリーの伴奏に話を戻しましょう。




果たしてちゃんと音を拾えているのか非常に怪しい所ですが、音使いについての全体的な傾向としては、見ての通り、左手でコードのガイドトーン(3度と7度)を弾いて、右手ではテンション、といった教科書通りのボイシングはほとんど見て取れません。
※ちなみに、記譜としては、ト音記号とヘ音記号の割り振りの規則性はありません。ある程度読みやすい音域に和音を固めているだけです。
それどころか、ほとんどの場合、どれを右手で弾いて、どれを左手で弾いているのかを想定することすら、私には困難です。と言うより、いざ譜面にすると、今ひとつ縦の厚さに欠ける印象があり、本当にこんなに薄い和音しか抑えていないのか不安になるというわけです。(しかしだからと言って、他に弾いている音があったとしても分からないんですよね。正直、多分弾いている気もします。)
まあ、仮に音はそれほど正確でなかったとしても、リズムを感じるだけでも相当効果あるはずですので、せっかくですから上手くご利用下さい。
では、それぞれ大まかな小節ごとに内容を見ていきます。

1小節:2裏から次の小節の1頭のリズムパターンはよく弾かれます。見事にブレイクのペットのフレーズのお休みの合間を埋めています。
2小節:2裏以降のコードや3裏の前打音的な音が何弾いているのかよく分かりません。いずれにせよ、この3裏のリズムはウィントン・ケリーがかなりよく弾くように思います。これにより伴奏にとてもスイング感を与えますが、正直、上手く弾かないと逆に重くなるため、真似したいなら要練習ですね。
3小節:1小節目で書きましたが、早速また出てきました。2裏から入って、次の小節の1頭のリズムパターンです。
4~6小節:4小節の4裏でDmを半拍食って入っているのに注目しましょう。その後のDmでは、レから半音が並ぶクリシエラインの後、6小節の4裏でCmも食って入っています。
7小節:4拍目でF7を食ってます。
8小節:2拍裏から裏入りが続いているので、4拍裏でB♭を食って入っても良さそうですがそうはしていないようですね。

9小節:1表はゴーストノートで、リズムのアクセントとしては、1裏3表です。2拍と4拍の四分休符をしっかり感じたいところです。
10小節:裏ばかりでなく、たまには四分音符で表拍に2回入れるということもあるということですね。
11~12小節:ペットのフレーズに完全に合わせているし、その後のブレスの合間にコードを放り込んで見事に空間を埋めています。予知能力でもあるのかと言いたくなります。
13~16小節:この一連の流れをそのままリズムとして自然に歌えるようにしたい位ですね。
13小節の2裏からの伸ばし(2表をしっかり感じた後に裏入りする)、14小節の1表でそれを受け止めてから、4拍目の八分音符かつ、その裏拍のコードは次のコードを食っており、そこから連続する裏入り。15小節の2裏から3表への受け渡し、16小節の1表と2裏のリズム、4裏で食ってFへ解決。17小節の1裏まで続いています。全てが綺麗すぎます。

17~18小節:17小節の3拍目からのFコードのリズムパターンは、ベイシーエンディングと同じであり、自然に感じられるようにしたいリズム。ペットが音を伸ばしている時にこういうことをしてスイング感を補強しているように思われます。
19小節:4拍目では半拍ではなく、4分音符丸ごと先取りしています。いつもやるとうるさいかもしれませんが、ここではペットのフレーズが空いたので、素早く埋める意味もあって、こうしているのかもしれません。(知りませんけど。)
20~21小節:2拍裏から連続しており、4拍裏でDm7に解決しても良さそうなリズム。その場合は次の小節(21小節)は1裏、3表で音を入れることになる様な気がします。そんな私の妄想はさておき、4裏を前打音的に弾いて、21小節の1表でDmへ着地しています。この前打音が何を弾いているかよく聞こえません。
Dmの所は、前回はクリシエのラインでしたが、ミ、ド#、レ、という内声でレを挟み込むラインが出来ています。
21~22小節:21小節は若干G7を感じさせる音使いになっています。ベースラインも完全にG7ではないけれど、少しそれを感じさせます。4裏でCm7を食って入っています。このコードも9thが入っているかちょっと微妙です。入っている気がしますけど。
23小節:正直あんまりよく聞こえません。
24小節:16小節と基本的に同じ、1表と2裏のリズムです。ツーファイブなどで解決する前に出てくるリズムと言えそうです。

25小節:この1裏、3表、4裏もよく出てくるリズムです。コード進行の都合上、4裏でB♭mを食っていますが、同じコードが続く場合やブレイクなどでも登場するリズムです。
26小節:4裏はFを食っています。
27~28小節:大まかな進行的には、27小節がF→E♭7で、28小節目にD7です。27小節の3表4裏は、4裏に次のコードを食うパターンのいい例でしょう。28小節の4裏で一応、次のGm7も食ってます。
29小節:また出てきましたが、2裏の前打音的な音です。それでスイング感付けて、3拍目の音は、ペットのフレーズの間に見事に入っています。本当にどういうセンスしているんだか。
30小節:4裏のドの裏入りで、ドミナントペダルっぽくなっています。裏から入っているので、スイング感が強くなりますね。
31小節:同じく4裏でコードを食って、スイングしています。
32小節:4裏でFを食うのではなく、33小節の1表でFに行くように、前打音的にシ♭入れて、次の1表にFのラにつなげています。こういうパターンもありですね。
いかがでしたか?ちょっと短かった上、譜面は音が若干怪しいですが、この中だけでも、ウィントン・ケリーの驚異的な伴奏スキルが垣間見えたのではないかと思います。このような優れた伴奏のリズムをよく聞き、それを分析することが大切です。
ポイントとしては、次のコードは基本的に裏で食って入ることが多いですが、場合によっては1表でカッチリコードを切り替えることもあります。ただし、原則、コードが変わってから後から追いかけるようにコードを弾くと、ノリが悪くなるため注意しなければなりません。その他にも、譜面には表せない微妙な音の長さや強弱なども大切な要素です。
今回採譜した中にも、比較的弾きやすい場所、音が聞こえやすい場所などがいくつか存在するでしょう。そういった所だけでも集中的に練習すれば、リズム感を習得するのに役立つはずです。
また、自分で耳コピする場合では、聞き取れない和音や、技術的にカバーしきれないボイシングなどを、自分に扱いやすい範囲に調節するのに、理論やボイシングに関して勉強した知識を活用するのは決して悪いことだとは思いません。ボイシングの作り方やコードや理論を勉強するのは、もちろん大切なことです。
ただし、それは音使いにとどめ、あくまでリズムやノリに関しては、音源を参考にするのが良いのではないかと思います。ちなみに、こちらの記事では、ジャズのリズム習得に適した練習方法を紹介していますので、よければ併せてお読み下さい。
あと、ここまでに何度か「伴奏の耳コピは難しい」ということを述べてきましたので、簡単な対策の案も挙げておきます。一つはピアノのアドリブソロの左手を耳コピして、伴奏のリズムを練習するということです。
その方が基本的に左手だけになりますので、音域や音数、和音の組み合わせに関して可能性が狭まり、音が聞き取りやすいでしょう。デメリットとして、やはり両手の伴奏に比べてボイシングのパターンは限られることが挙げられます。
他の方法としては、レベルに応じた教材を使って練習することです。適切な教材であれば、「その教材をしっかり練習すれば(これ大事)」力が付くように出来ています。ATNのコンピング系の教材は良書です。
以下は私の想像ですが、こうした教材は、演奏自体はミュージシャンに自然にアンサンブルをさせてはいるものの、その際にピアノの鍵盤を上から撮影するなどして、やっていることを極めて正確に記録し、それを譜面化しているのではないでしょうか。
音源を、頭を抱えながら牛歩で耳コピすることで得られることもありますが、教材の譜面を見ながらサクサクと学習を進めた方が良いこともあります。数学の参考書とかで、散々自分で考えて何日も悩んで結局分からないままならば、一定時間考えて分からなければ解答、解説を読んで問題を解けるようにした方が、力が付くのに似ています。
最後にトミフラの伴奏も半コーラス掲載しておきます。たまに4度系のボイシングが出て来たりして、ウィントン・ケリーとはまた異なる音使いも見られます。テンポもゆっくりですので、テンポの違いによる伴奏の違いも感じて頂ければと思います。(YouTube)


今回の記事があなたの役に立ちましたら幸いです。
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