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ジャズピアノ ブレイク練習のススメ

  • 2024年10月14日
  • 読了時間: 13分

 

  こんにちは、ジャズピアノ研究室管理人の田中です。


 前にエンディングについての記事を書きましたが(コチラ)、そこで、エンディングのブレイク(ブレーク、Break、細かい発音は知りません)についても言及しました。ブレイクというのは、リズム隊がいなくなって、ソリストだけになる、あの部分のことです。


 この時、ソリストはリズム隊無しでも正確に拍を出し、ブレイク明けに、みんながしっかり戻ってこられるフレーズを奏でる必要があります。そして、このブレイクですが、実はエンディングよりも、むしろソロ入りの時の方が、多くの人がイメージしやすいのではないでしょうか。マーク・レヴィンのジャズセオリーなどにもブレイクは「典型的には」ソロの始まりに行われるとあります。


 ピーターソンがCジャムブルースでコーラスごとにブレイクを挿入していますし、また、エンディングに行うものを厳密にブレイクと呼ぶのかどうかは分かりません。が、それはともかく、このブレイクの練習は、ジャズを始めたばかりの人にとっても、有効な練習になる可能性が高いです。


 この記事を読むことで、その有効性を理解し、ブレイクの練習を通してジャズの上達に役立てることができるようになるでしょう。また同時に、アドリブのほんの触りの何秒かであるブレイクだけでも、いかに多くの表現の可能性があるかもお分かり頂けるかと思います。


 早速ですが、練習題材としてのブレイクの有効性は、前述の通りソリストが一人でテンポ、拍と場所の提示を担っているということに起因します。


すなわち、

・耳コピして自分が弾く時に、リズム隊がいないので、自分の弾いたものと音源を文字通り一対一で聞き比べできる。つまり、自分のスイング感が嫌でも露呈する。フレーズのテンポ感が失われると、どこを弾いているのか分からなくなる。


・フレーズ自体にコード感やハーモニーがある(=ブレイク明けのコードに向かったフレージングになっている)ことが多いため、音使いとしても勉強になる


・大抵2小節であり多くても、4小節、せいぜい8小節であることから、短くて耳コピしやすい。


 特に重要なのが1番目に書いたことであり、ブレイクというのは、演奏している一人しかテンポを出していないため、テンポが分かりにくい音を出した場合、曲のスイング感がなくなってしまいますし、ブレイク明けのバンドの復帰がずれる事故が発生しやすくなります。


 この点について、更に具体的に、私のビッグバンド時代の経験から話を始めましょう。これまで何度か書いてきたように、私は学生時代にカウント・ベイシーの曲を特にたくさん演奏してきました。ビッグバンドにも曲の中に管楽器のソロパートがあるのですが、それなりの頻度で、ブレイクのあるアレンジになっています。


 学生ビッグバンドですと、余程ちゃんとアドリブやコードを勉強している人でもなければ、ソロの部分は丸々耳コピして、そのまま吹く場合がほとんどです。すると何が問題かというと、ブレイクのフレーズがまともに吹けなくても、そのまま耳コピしたフレーズを吹こうとするわけです。


 もっと言えば、管楽器の人は、(山野ビッグバンドジャズコンテストで上位入賞するような所は知りませんが)、リズムに対してかなり甘いので、そもそもブレイクのフレーズのリズムが甘いのです。


 この二つが重なると、何が起こるかというと、ブレイク明けのリズム隊の復帰で事故が発生する可能性が高くなります。リズム隊のメンバーが個々にテンポを感じて、それぞれがちゃんと戻れれば、揃うはずだという反論があるかもしれません。


 おっしゃる通り、理論的にはそうです。しかし、ブレイク中に、リズムが怪しいけれど、音源で聴きなれたフレーズが聞こえて来て、完全無視するのも難しい。なるべくソリストに合わせたい。と葛藤しながら5人(ソリスト、ドラム、ベース、ギター、ピアノ)がブレイク明けに揃うというのはなかなか難しいものがあるということです。ですから、落としどころとしては、結局ブレイク中も、ドラムがハットを2、4拍で踏んだり、フィルを入れたりして、拍をソリスト任せにしないという対策を採ることが多かったと思います。


 そんなレベルが高いとは言えない大学ビッグバンド生活でしたが、ソリスト本人も吹きたがらない、お決まりの鬼門的ブレイクに関するエピソードがあります。曲はShiny Stockingsでのトランペットのソロになりますが、そのブレイクは下記の通りです。

※スタジオ録音だと、2小節目の一つ目が少し違いますが、ライブ録音等では以下のパターンの方が多いです。YouTube音源


楽譜

 最初の八分休符と八分音符はイーブンに近いです。そして、この細かいフレーズの繰り返しですが、これを吹こうとされると、大体拍が消え失せます笑。


 ですから、事前にソリストになったメンバーに、このブレイクだけはやめて、他のバージョンを耳コピするように、バンドメンバーから依頼がありました。ソリスト本人も分かっていたようで、これを吹くことはありませんでした。


 ちなみに、トランペットの技術的な問題は分かりませんが、ピアノであれば、shiny stockingsを演奏するようなテンポであれば、特別に難しいことはないでしょう。特に、拍の頭に来ているミ♭が安定して出せていれば、拍が分からなくなるような惨事には至らないのではないかと思います。


 このフレーズは、コード感を出すというよりも、モチーフを繰り返して拍を出すタイプです。ブレイクに限らず、アドリブ中のフレージングの様々なアイデアを考える上でも役に立つでしょう。


 また、上記のことから推測できるのは、セッションにおいてブレイクを一人で任せてもらえない場合(いつも、ドラムやベースがサポートする場合)、まだ一人で拍を出すことが出来ていない可能性が高いということです。


 特に、合わせるメンバーがホストの場合だと、拍が出せていない可能性が高くなるでしょう。ホストは参加者のレベルに応じて上手く演奏をコントロールしますから、セッション中にあなたの演奏をしばらく聞く中で、この参加者はまだ、ブレイクで一人にすると拍が出せないレベルだと判定された場合、ブレイク中にフィル等を入れられてサポートされる可能性が高くなります。


 逆に、ブレイクを作ってもらえる場合は、一人にしても大丈夫だと判定されている可能性が高いですので、期待を裏切らぬよう(笑)、しっかりブレイクを決めましょう。もちろん、演奏上、フィルを入れた方が盛り上がったり、自然な場合もあるため、しゃくし定規な判定はできませんが、拍を出せているかどうかの一つの指標くらいにはなることでしょう。


 さて次に、ブレイク中のフレージングですが、これは先ほどのシャイニー・ストッキングスの例に見られるように、必ずしもバップフレーズの様な、コードに沿ったフレーズとする必要はありません。とはいえ、適当な音を出しても拍は出ませんので、ちゃんと、着地するブレイク明けの音を狙ったフレーズにする必要はあります。


 この譜面はピーターソンの名盤「プリーズ・リクエスト」の酒バラのブレイクです。Fのブルーノートスケール一発で、3連符を主体としたフレーズです。後半は重音になっていて少し分かりにくいですが、内声が半音で進行していて、最後の着地のド、シ♭、(装飾音+)ラのドに向かっています。Youtube


楽譜

 この重音がブルースフィーリングを出していますし、3連符にすることで、重音での強調と、下のファが交互に現れ、四分音符の2拍3連の様なリズムを感じさせます。(3連符が2つで6音=4分音符2拍というのは、同時に、3連符2個の6音を三つに分けることもできる=2拍3連ということ)


 つまりブレイクの中に、普通の4ビートの4分音符、3連符(スイング)、四分音符の2拍3連など、複数のビートが混在していると感じられます。また、譜面に表しきれませんが、最後の八分音符二つと、着地の装飾音符は少し引っ張った感じで弾かれており、非常に心地よいです。


 わずか2小節、弾いている方もさらっとしていますが、非常に高度なブレイクだと考えています。(ちなみに、技術的にも、普通はなかなかあのようにさらっと弾くのは難しいと思います。)



 

 次に、ハンク・ジョーンズやトミフラのブレイクを少し見てみます。


 これはハンク・ジョーンズで、I remember you です。テンポは200くらいでキーはA♭メジャーです。このブレイクはA♭メジャー一発で弾いていると考えて良さそうです。最後の2拍はE♭7と考え、ブレイク明けのA♭へ進行感を強めていると解釈することも出来そうですが、どちらでも結局使われる音は同じですね。YouTube


楽譜

 つづいてLove walked inで、テンポは210位、キーはE♭メジャーです。上のI remember youと同じアルバムからですが、テイクは1の方です。こちらは、前半がE♭M7で、2小節目はB♭7と考えるので良さそうです。1小節目の3、4拍からのファ、ミ、ド、ド#、レという、ディレイドリゾルブの音使いが、一つ注目ポイントです。YouTube

※ちなみに、この音源は、↑のアルバム「I remember you」に収録されるLove Walked inの別テイク(テイク1)です。

楽譜

 続いてトミフラのSpeak Lowで、テンポは240くらい。キーはFメジャーです。曲の頭はGm7になります。ブレイクの前半はFM7で、後半は、曲の頭のGm7へ向けて、そのドミナントのD7と考えるので良いでしょう。前半はアルペジオ的なフレーズで、後半はソ、ファ、ファ#でD7の3度へ、ブレイク最後のド、ラ、シ♭で、Gm7の3度へアプローチしていることに注目しましょう。YouTube

※テイク2はボーナストラック

楽譜

 このようなブレイクは、バップ系のピアニストの音源を聞けば、枚挙にいとまがありません。気に入ったブレイクを見つけたら、それがどのような音使いで、大体どのようなコードを想定して弾いているのか考えるのが良いでしょう。


 さて、一方で、レッド・ガーランドのIf I were a bellのブレイクはどうでしょうか。これはテンポ150位のミディアムスウィングのド真ん中ですが、こちらのように、ただファを連打しているだけのものも存在します。


楽譜

 これはある意味、フレーズを弾くより難しいです。フレーズであれば、多少音を出すタイミングがふらついたとしても、フレージングの前後関係で拍を推測することが可能です。しかし、こういったシンプル過ぎる場合、ちょっとでも音の出すタイミングがずれたりすれば、たちまち拍が分からなくなる危険があります。また、ただ4分音符ではなく、絶妙なタイミングで裏入りが入っていることもスイング感に影響を与えており、リズム練習に適したブレイクと言えそうです。



 

 それでは、少し話題を変えて、ブレイクの小節数に関しての内容です。


 ここまでの曲で見てきたように、ブレイクは2小節の場合が多いですが、曲によっては4小節のこともあります。代表的なものは「チュニジアの夜」です。そして、これは私の個人的なイメージですが、この曲のブレイクは「わざわざ」16分音符にして演奏されることが比較的多いように思うのです。


 例えば、以下の譜面。バリー・ハリスのものですが、キャリアの後半の頃で、若干指回りが怪しいです。でも、なんだか分からないけど、ちゃんとスイングしている、という技術衰えた後のジャズジャイアントあるあるでした。

※すみません、YouTube音源見つからず。Live from New York Vol.1 からです。


楽譜

それはともかく、フレージングとしては、FM7とC7を行ったり来たりしていると考えられますが、厳密に切り替えを定義するのは難しいです。例えば、最初のドレミファミレドシも、C7ではないのか、といったら、絶対違うとは言い切れないように思います。ただし、C7の♭9(レ♭)のサウンドから、FM7に解決する所に関しては、典型的なビバップフレーズですので、そこはC7と考えて良いでしょう。


 そして、このように16分音符で弾き倒す傾向があるチュニジアの夜のブレイクですが、無理に16分音符を弾こうとして、拍が消えてしまうくらいであれば、8分音符で弾くことは全く問題ありません。そもそも4小節で長いですし。


 音源のプレーヤー達が、8分音符でないと拍が出せないという意味ではありませんが、8分音符でブレイクを弾いているものもたくさんあります。(そんなことで拍が失われるような未熟者は基本的に音源出せません。)


 以下の譜面はバド・パルエルのチュニジアのブレイクです。FM7一発と考えてよさそうです。


楽譜

 最後に、ビッグバンドのNica’s Dreamからです。東京アンサンブルラボのこの音源は、学生ビッグバンド界では割と有名だと思います。


 ピアノは島健氏。当時、カウント・ベイシー中心にやっていた私からするとカルチャーショック以外の何物でもなく、ある意味、完全に拒絶反応。しかし、なぜかうちのバンドで演奏することになり、とにかく難しかったです。


 いわゆるアドリブの練習や勉強もしたことがないのに、こんなコード進行など解釈できるわけもなく、アドリブはもちろん、バッキングもただひたすら音源の音を必死でまる暗記に近いアプローチでどうにか食らいつきました。


 そんなわけで今は大好きなNica’s Dreamですが、出会いの第一印象は最悪。この曲や、この演奏の良さがわかるまでに、年単位の時間を要しました。今演奏すれば、もっと楽しんでできるだろうと思う曲はいくつかありますが、その筆頭です。


 閑話休題。このピアノソロのブレイクは以下の譜面です。YouTube


楽譜

 このブレイクはなぜかリズム隊の復帰がブレイク明け1小節目の2拍目なのです。(譜面ではアクセントをつけている部分です。)打合せをしているのか、その場の思いつきでそんな高等なやりとりをしたのか分かりませんが、さすがに前者だったのではないかと思います。いくらなんでも、2拍目で他の楽器と綺麗に揃い過ぎです。


 私の学バン時代にこのブレイク明けを再現したかどうかは、正直覚えていませんが、なんとなく覚えている限りでは、再現していません。みんなで自然に2拍目に入れず、結局やめた記憶があります。


 また、ドラムの先輩が他のバンドでこの曲を演奏した際に、「このブレイクを再現する」とメンバーで決めたはずなのに、それを忘れたメンバーが1拍目から入って、「逆に自分がミスった感じになった。」と言っていました。


 これらのエピソードから、結局何が言いたいかと言うと、たった2小節の表現でも、突き詰めると、とても奥が深いし、難しいということです。


 そう思うと、この記事の一番最初で書いた、トランペットのShiny Stockingsのブレイクと似ているところがあるのかもしれません。


 もし万一、「あのブレイクはやめてくれ。1拍目に入るべきか、2拍目に入るべきか、迷うから。」とバンドメンバーに言われたら、(自力でフレーズを組めなければ)どこか他からブレイクを拝借しないと弾けません。しかし、Shiny Stockingsは、他にいくらでも違うテイクの音源がありますが、Nica’s Dreamのビッグバンドは他にそうありません。困ってしまいますね。


 それなら、本家Horace Silverのものならどうかと思えば、2分音符が3回並んでいるだけ。「簡単だ」と思いきや、実は、絶妙に前打音が入っており、このフィーリングを表現するのはちっとも簡単ではありません。


楽譜

 しかも、このバリバリにコンテンポラリーの雰囲気に、ホレス・シルヴァーのオリジナルの雰囲気も少し違う気もしますし。いずれにせよ、結局、音だけどんな音を出したとしても、出しているプレーヤーのリズムやフィーリング、スイング感が伴わなければ、それ以上の演奏にはならないというわけです。


 さて、最後は若干、思い出話のようになってしまいましたが、この記事を通して、たった2小節(や4小節)の表現でも、実にさまざまな表現の可能性があることがお伝えできていればと思います。


 まとめますと、ブレイクといれば、一般的にソロの入りの部分を示すことが多いです。バンドメンバーに正確に拍を伝える必要がありますので、バップフレーズの様なコード感のあるフレージング以外にも、リズム遊びの様な、様々な可能性を知っておくと良いでしょう。


今回の記事があなたの役に立てば幸いです。


 

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