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ビッグバンドからジャズをやり始めて良かったと思うこと

  • 2024年5月12日
  • 読了時間: 9分

更新日:2024年7月7日


 

 私はジャズのことを全く知らない状態で大学のビッグバンドサークルに入り、ビッグバンドを通してジャズの演奏に向き合ってきました。そのため、卒業するまではアドリブや少人数のセッションやコンボ編成での演奏はほとんどできるようになりませんでした。その辺りのことができるようになってきたのは、サークルを引退してからです。


 しかし、コンボ演奏やアドリブに取り組み始めた時、ジャズビッグバンドでの経験がそれらの上達に役立たなかったかというと、そんなことはありません。むしろ、ビッグバンドから始めたことで、上手くジャズを続けられたという面の方が大きいのではないか。とすら思います。


 要約すれば、「アドリブをほとんどせずに、書き譜(コピーしたフレーズを譜面にしたもの)中心の取り組みでも意外と上達する。もちろんジャズのアドリブをしたければ、いずれアドリブの練習や学習は必要だが、ビッグバンドで培った能力も、ちゃんとジャズの演奏レベルの向上に役立っていた。」ということです。


 この記事では、そのビッグバンドから始めたことによるメリットを考察していきます。これを読むことで、あなたのジャズピアノの練習の方法について、今までになかった新たな視点が加われば幸いです。


 そもそもビッグバンドジャズとは、映画「スイングガールズ」の様に、16人くらいの大人数で演奏するバンドです。メロディ部分を主に表現するトランペット、サックス、トロンボーンといった管楽器と、リズム隊と呼ばれる、ドラム、ベース、ピアノ、ギターなどリズムキープ部隊から構成されることが多いです。


 演奏する楽曲は、少人数のコンボ演奏と比べれば、譜面や楽曲の構成などが予め決められている部分が大きいです。もちろん、アドリブ的な要素は皆無ではなく、譜面にない部分もありますが、あくまで傾向として圧倒的にアンサンブル面に重点が置かれています。


  クラシックピアノ経験者が大学でジャズを始めるのと似たような現象として、吹奏楽部経験者の管楽器プレーヤーが、大学のジャズビッグバンドサークルに入部するのは、割とよく見られる光景です。


 ビッグバンドは編曲やアンサンブルの要素が大きいため、特にメロディやハモリなどを担当している管楽器は譜面が用意されているのが基本です。そのため、学生ビッグバンドの管楽器奏者は全くアドリブができない人もかなり多いです。(少なくとも私の時代は。)


 ソロの部分を任された場合も、プロではアドリブで吹いている所を丸々音源からコピーして、それを練習して吹く場合が多いです。よってこれもアドリブ能力の養成にはあまり効果はありません。

 もっと言うと、一流の演奏家であっても、ビッグバンドの場合はソロの出来や楽曲の構成上、譜面を用意してソロを吹く人もいるくらいです。


 一方で、学生バンドにおけるリズム隊は、そういった譜面中心の管楽器と、コンボによる即興要素の間あたりで、どちらかいうと、譜面寄りといった所です。すなわち、コードや最小限の「決め」が書かれている程度の譜面であることが多く、多くの演奏部分は音源を参考に(要するにコピー)して弾くことになります。


 ただし、細かい部分まで一言一句コピーしたり、再現しない(できない)こともよくあります。また、一応音符が書かれた譜面ではあるが、その音符が演奏する音源と違うということや、誰かがコピーしたメモ書きみたいなものが申し訳程度に書いてあるということも結構あるわけです。その場合、どういった部分を優先するのかというのは、状況や自分の好みから判断していきます。


 尚、ピアノの役割は8~9割はバッキングで、そもそも音の大きな管楽器やドラムが思いっきり鳴っている間は、音が聞こえないということもよくあります。また、イントロや楽曲中にソロ尺があることも珍しくありませんが、これらは上記の管楽器の場合と同様、既にアドリブできる人がアドリブを弾く以外というレアケース以外はコピーで対応することになり、アドリブ力の向上には大きな効果はないことが多いです。


 ビッグバンドの概要を説明したところで、私にとって、このリズム隊でのピアノ経験が、コンボ演奏への移行時にどのように役に立ったかについて、以下に続けます。


1つ目のポイント

 全体を通して、「ビッグバンドはコピーが中心で、アドリブソロは取らないし、バッキングばかりだけれど、何だかんだ言っても、やっている音楽はジャズである」というのが非常に重要でした。


 コピーがメインとはいえ、リズム隊のパート練習ではドラムやベース、ギターとアンサンブルをしたり、曲の中で管楽器のソリストのバッキングをたくさん経験します。これにより、それなりにジャズのスイングのリズムを感じたり、コードを勉強したり、疑似的なセッション体験を積むことができました。


 また、一般的にハードルが高いアドリブソロも、ビッグバンドでは「書き譜」、すなわち丸々コピーしたフレーズで対応するため、アドリブができないと悩むこともありません。更にコンボ演奏ほど楽曲構成においてソロの重要度が高くないため、取り組む際のプレッシャーも少なかったです。確かにアドリブはほとんどできるようにはなりませんでしたが、それよりもアンサンブルや演奏自体を楽しむことで、無理なくジャズを続けることができました。


 更に私の大学が主に演奏していたカウント・ベイシーのピアノは、表面上は音数が少ないことが多いです。ピアノの物理的な技術面は(難しいクラシックの譜面を弾くのと比べれば)難易度は低いため、その点でつまずくことは基本的になかったです。(これが、ミシェルカミロビッグバンドやNo Name Horsesではこうはいかなかったでしょう。)


 例えば、名盤「ベイシー・イン・ロンドン」の「Untitled(Oink)」など、非常にシンプルで、音だけ鳴らすならば技術的に困難に感じる人はあまり多くないでしょう。

※下図はテーマメロディの概要を譜面で引用。

 しかし、これをスイングして上手く弾こうと思うと、途端に難しくなります。そういう状況で、いかに上手く弾くか試行錯誤していくなかで、徐々にジャズに慣れていくこともできたと思います。

楽譜

 そして先述した通り、ビッグバンドにおけるピアノの役割は、コンボ編成の時以上に、更に「バッキング」が主体となります。こちらの記事で書いた通り、ジャズピアニストにとって、バッキングというのは大切なスキルである一方、初心者にとって取り組みにくいことが多いと思います。


 ある意味、ビッグバンドでは強制的にこういった役割を多く果たすことになるため、バランスとしてはちょうど良かったかもしれません。これにより、あまりアドリブなどのピアノの華やかな面にとらわれ過ぎることなく、ジャズピアノの様々な楽しみ方やスタイル、表現方法を経験できました。


 あとは、メンバーそれぞれが音源をできる限り高い精度でコピーしてきた時は、その演奏は一応それなりのレベルになりました。音源の高いレベルの演奏を疑似的に体験することができ、アンサンブルしていて満足感も高かったです。それと同時に、音源がいかに高いレベルで演奏しているかを肌で感じることに繋がり、もっと上手くなりたいというモチベーションや、ジャズジャイアントに対するリスペクトにつながったように思います。


 

2つ目のポイント:B♭のブルース

 もう一つの大きなポイントは、「B♭ブルースだけならば日常的にセッションしていた。」ということです。その背景として、リズム隊はバンド全体の練習の時に、管楽器がチューニングやリズム練習をする裏で、ずっとB♭のブルースで伴奏するという慣習がありました。


 この伴奏自体もそうですし、それに慣れるためにB♭ブルースでのセッションはリズム隊のパート練習に含まれていました。このパート練習の時にピアノトリオ(実際はギターがいるのでカルテットですが)の真似事ができたのです。つまり、テーマを弾いて、アドリブを弾くということです。この時ばかりは、アドリブはアドリブでやっていました。


 今から思うと、どんなしょうもないアドリブを弾いていたことだろうと思いますが、それでも、アドリブを弾く。ということに対する精神的なハードルを下げる効果はあったように思います。


 ちなみに、ジャズを始める時に一般的に取り組むのはFブルースですが、なぜだか、B♭でやっていました。まあ、管楽器のチューニング音のB♭がよりサウンドするキーだからだろうと、今でも勝手に思っています。

 

 この頃の私のセッション能力といえば、このB♭ブルース以外は辛うじてミディアムアムテンポの枯葉がGマイナーでできた程度だった記憶があり、少なくとも、いきなりDマイナーでやろうと言われたら対応できませんでした。その枯葉ですらアドリブはちゃんとジャズのフレーズをコピーしたり勉強したものはほとんどなく、ひどいものだったと思います。

 

 そんなレベルでしたから、上手くてセンスのある同級生たちが、いわゆる普通のセッションを楽しんでいるのを横目で見て、ビッグバンドの練習をしていました。


最後に

 さて、ビッグバンドサークルの経験が、いわゆるセッションやコンボジャズのアンサンブルに取り組む際に、どの様に役に立ったかを説明してきましたが、イメージはつかめたでしょうか?


 今思えば、あの頃の私も「何もわかっていなかった」ように思いますが、それでも、少なくとも大学2年の時よりは4年の時の方が、ジャズのことを分かっていたし、上手くなっていました。つまり、多少でも進歩はしていたということです。


 そして、それによりコンボやセッションにスムーズに移行できたことは間違いありません。

 つまり、「最初は細かいことを気にせず、ビッグバンドでも、ピアノトリオでも、好きな音楽をコピーして弾きまくることで、ある程度まで上手くなる可能性が高い。」ということです。伴奏アプリなどと合わせているだけでも、数をこなせば効果はあるはずです。あまり最初から難しく考えすぎず、その時できることに精一杯向き合っていれば、かなり効果があることを知って頂ければと思います。


 もし腕前に自信がなくてセッションにいくのをためらっている場合も、例えば、最初はアドリブを全部コピーでもいいから弾き通す、といった、常識にとらわれない取り組みによって、少しずつ上達していく可能性が十分にあります。


最後にまとめますと、

・ビッグバンドはアンサンブル重視の傾向があり、ピアニストもアドリブができなくても楽しめる。(コピーや譜面を中心に楽しめる)

・アドリブが取れなくても、他の楽器とのアンサンブル経験はジャズの理解に十分に役立つ

・ビッグバンドピアノの主な役割はバッキングであり、ある意味強制的に、このスキルを練習することができる

・バンドメンバーが揃ってコピーしてそれをアンサンブルすることで、よりジャズミュージシャンの演奏内容を学ぶことができる

・B♭ブルースだけでも、セッションの真似事をしていればアドリブへの精神的なハードルが下がる


今回の記事があなたの役に立てば幸いです。


ジャズピアノ研究室 管理人

田中正大


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