ジャズの基礎練習は何をやれば良いのか?
- 2 日前
- 読了時間: 14分
こんにちは、ジャズピアノ研究室管理人の田中です。
先日、クラシックピアノを弾く知人と話している時に、「ジャズの基礎練習って何やるの?」という話になりました。その時の私の回答は、一言にまとめれば「色々あると思う・・・」という非常にあいまいなものでした。一応、目の前にピアノもありましたので、それを使いながら話もしましたが、後から改めて考えると、私自身も「ジャズの基礎練習って何だ?」と、自問自答したくなる質問だったように思います。
一般的にピアノの基礎練習というと、ハノンとかツェルニーのような練習曲を弾いたりするイメージがあります。これらは、そもそもピアノという楽器を演奏し、その技術を磨くための基礎練習と考えることができるでしょう。そのため、ピアノがある程度以上弾ける人がジャズを始めた時に、ジャズを弾けるようになるために行う基礎練という視点とは少し異なると言えます。
なぜならば、統計的にも、ジャズピアノ初心者というのは、ピアノという楽器自体は演奏経験(基本的にはクラシックピアノ)があり、その上でジャズに転向している人が大半なのです。ジャズ転向時のピアノの演奏技術には個人差がありますが、ここではひとまず、子供の時だけピアノを習っていて、今は買ってきた楽譜を読んで楽しくピアノを弾く。とか、現在継続してピアノを習っている、などの状態であればピアノの演奏ができると定義することにします。別にラフマニノフを耳の肥えた聴衆の前で弾けなくても大丈夫です。
当然、ジャズを弾くにもピアノは「上手い」に越したことはありませんが、ある程度のピアノ演奏技術を習得している人であれば、「ジャズの基礎練」を行うなかで、ジャズの動きを学びながら、並行してピアノの基礎技術を高めていく方がスムーズだと私は考えています。その理由は、人間は普段行っている動作をよく習得する生き物だからです。
一旦基本的なピアノの演奏技術を習得しているのであれば、それをジャズのリズム、運指にチューニングしていく過程で、元々習得していた基礎技術がジャズ仕様になっていきます。
例えば、黒鍵を弾く時に親指をなるべく避けるとか、音階の指くぐりをする時に、5の下に1の指をくぐらせるのは大変といったことはピアノの基礎技術ですが、45の指や3度の重音トリルをする動きがジャズピアノで主要な技巧として出てくるかというと、かなり疑問です。また左手も、クラシックで登場するような細かい動きが必要なことは原則的に稀です。
よって、そういう練習をするくらいならば、ディレイドリゾルブの感覚を掴んだり、左手はツーファイブワンの1度7度と1度3度のボイシングをスムーズに入れ替えられるようにした方が実践的でしょう。
さて、少し先走ってジャズの基礎練習の一案を書いてしまいましたが、以上を踏まえて、ここからは、ピアノは弾けるがジャズはやったことが無い人が、ジャズの基礎練習に何をすれば良いかについて、考えて行きたいと思います。
まず初めに、基礎練習の具体的な内容を考える時にポイントになるのが、基礎練習をスタ本に書いてあるような曲を用いて行うのかどうか?です。これは実はどちらでも構いません。結局どちらでもほぼ同じことです。どういうことか、もう少し説明しましょう。
ジャズの特徴として、演奏の際に楽譜の決まった音を弾くというより、コード進行に則って自由に演奏するという傾向が強いです。その結果、ジャズのために書かれた練習曲は、スタンダード曲に頻出するコード進行のパターンを抽出して、それを繰り返し実施するような曲になることが多いのです。
結果、練習曲なのか、実際の曲を抜き出して練習しているのか明確に区別が難しい場合が多いです。結局、スタンダード曲と、ジャズのために書かれた練習曲は「鶏と卵」の関係のようになりやすいのです。
以上のことから、ジャズではスタンダード曲のように通常の演奏レパートリーになるような曲でも、基礎練習の題材になり得えます。しかし、初心者の場合、スタンダード曲から基礎練習の題材を抽出したり、基礎練習を組み立てることが難しいため、いわゆる「教本」などで練習曲を練習することが多いです。
そして、いつかはその練習で習得したことを実際の自身の演奏に落とし込む必要があります。しかし問題は、その基礎的な練習を実際のスタンダード曲に落とし込む際に、本来同じ起源であるはずの両者を上手く接続、関連付けできないということです。その理由の大半は、練習曲が、ジャズの頻出パターンやスタンダード曲の何処を習得するために書かれたのかを、意識したり理解できていないまま、練習曲に取り組むからです。
これを意識し、理解するためには、練習曲に内容に関する適切な解説が付属していること(そして、それを読むこと)、理論の知識習得、スタンダード曲を知ること(聴くこと)、などが必要です。そのため、理解を深めるために時間をかけて取り組なまければなりません。これが、ジャズを始めてもすぐに演奏が形になりにくい大きな理由です。
そこで、今回の記事では、そこの「接続」の部分に関しても、少しでも何かヒントになることも書いていければと思っています。
それから、後述もしますが「基礎練とは何か?」という問いに関しては、結局は「自分の技術や演奏を一定水準以上に維持、または向上するために反復して行う、楽曲以外の練習」と言えそうだという考えにまとまりました。
よって、具体的な方法、内容は人によって異なる部分はあるかと思いますが、定義にあたる部分は全員共通になるのではないかと考えられます。特に反復というのが重要で、これが一般的に考えられる「基礎」の象徴的な部分だと思われます。
ちなみに、クラシックピアノでもショパンの練習曲以降、技術練習と観賞目的が両立するような練習曲集が書かれるようになってきましたが、それらの曲は概して演奏難易度が高く、「基礎練習」とはかけ離れているため、趣旨が異なると言えます。
それでは、さらに基礎練習ポイントとして具体的に音楽の3要素のリズム、メロディ(フレーズ)、ハーモニー(コード)に分けて考えてみることにします。若干、これまでのブログ記事のおさらい、振り返りのような部分もありますが、新しい内容も含まれますので、是非読んで頂ければと思います。
・リズム
既に「ジャズのリズム練習に最適な曲とは」という記事を過去に投稿していますが、
これは曲を使って、リズムの基礎練習をする例と言えます。楽器でコードなどを曲に合わせて変化させる方法もありますが、最初は楽器を使わず、手拍子などだけで縦の位置を合わせることに集中するのが良いはずです。楽器に意識を回さずに済む分、スイング感を感じやすく、取り組みやすいと思います。
特に、裏入りで音を出す場合、その裏拍のコードは次のコードを先取りするため、(4拍裏の場合、次の小節のコードを先取りする。等)スイングに慣れないうちは、スイング感と、この先取りを同時にこなすのが難しいです。まずはしっかり裏に入れるようにする練習の優先度を上げると良いでしょう。
尚、以前もどこかで触れましたが、ジャズにおける裏とは、八分音符の2つ目のことです。表が八分音符の1つ目です。それが小節の何拍目かを示す言葉ではありません。クラシックでは裏と言ったら2拍4拍で、表は1、3拍です。この前提共有をしないと、クラシックの人と話がかみ合わないので注意しましょう。
他にも、世の中にはリズムの練習用として、上記のブログ記事にあるようなリズムや、下記に示すような様々なリズムパターンを書いた譜面が存在します。

私の学バンでは、リズム隊(ドラム、ベース、ピアノ、ギター)がブルース進行を演奏している上で、管楽器がそういったリズムパターンを練習するということもやっていました。これがまさにリズムの基礎練習で、裏入りや4小節感覚などを習得するのに役に立ちます。
さて上の楽譜のリズムパターンは、実は実際の曲で演奏されているリズムパターンなのです。つまり、基礎練習とは書きましたが、それと同時に、実際の場で使われているということです。ここが、最初に述べた、実際の曲と練習曲の「鶏卵関係」ということです。
1段目:Lullaby Of Birdland(メロディの裏の打ち込みです)
2段目:Flight of the Foo Birds(ソリストのソロが始まってからの、Tbの打ち込み)
3段目:Broadwayでよくあるリズムパターンです
4段目:Teddy the Toad(連続する2裏、4裏です)
※ベイシーばっかりですが笑
リズム練習をしたければ、実際の音源で演奏されている様々なリズムパターンを音源と合わせて手を叩いたり、歌ったりするのも、基礎練習になるのです。むしろ、音源がついておらず、楽譜、リズム譜だけ記載された楽譜で練習するより、余程リズムを習得できるでしょう。
ところがその時の問題は、初心者の場合、今回新たに挙げた様なリズムを、実際の音源からピックアップすることが難しい場合が多いということです。すると、私の学バンで使用していたような「リズムパターン集」を調達してそれを練習することになります。
しかし、このように実際の音源を提示しながら、基礎練習としてリズムパターンを示すことを行ったり来たりしていると、徐々に音源から様々なリズムパターンを感じられるようになってきます。リズムパターンはたくさんあるので、他にもビバップのメロディを参考にしたり、たくさんの選択肢が存在します。とはいっても、まずは欲張らずにここで挙げているものだけでも、結構いい練習になるのではないかと思います。
この後のメロディやハーモニー(コード進行)でも、練習曲と実際の曲の鶏卵問題は発生しますので、それを見ていくことにしましょう。
・メロディ(フレーズ)
次にメロディですが、これは実践面ではアドリブのフレーズ練習になることが多いでしょう。ひとまず、そこに絞ってみたいと思います。さて、そのフレーズの基礎練習ですから、一番分かりやすいのは、任意のツーファイブワンフレーズを選び、それを様々なキーで練習するといったところだと思います。
これも、フレーズ集に書いてあるフレーズは音源がなかったり、フレーズ集には自分が好きなフレーズが無かったり、自分で耳コピできないからコピー譜を買って来たら良いフレーズが見つからなかったり、フレーズを覚えても実際のアドリブの時には全く出てこなかったりと、諸々そうは問屋が卸してくれません。
そこで私としては、更にフレーズを細かく分解し、文字通り基礎まで掘り下げた練習を「ジャズスタンダード「I'll Close My Eyes」型のコード進行が、ジャズの練習に適している理由」
で提示しています。こればかりは本当に基礎練習という感じがしますが、一方で、用いているコード進行はスタンダード曲のI’ll close my eyesを元にしており、その点で言えば実践的でもあるのです。
以上も「鶏卵」の部分ではありますが、それよりも基礎の方に思いっきり振り切れば、枯葉やブルースのコード進行でも同じ練習は可能です。(まあ、枯葉もブルースもちゃんと曲ではあるので、それも結局、程度問題と言うこともできますが・・・枯葉とツーファイブワンだけを比較しても、もはやほとんど何が違うのかもよく分かりませんし。)
上記の記事のような、文字通りの基礎練習を経た後に、もう少し実践的な練習をしたい場合、
の記事に記載したような、実際のフレーズ練習をすることになるでしょう。この場合も、練習するフレーズを2小節程度と短くし、それを様々なキーに移調したりすれば基礎練と呼べそうですので、一言に基礎練といってもやり方や内容に幅があることが分かります。
では逆に、どこまで行ったら基礎練でなくなってしまうのかというのも難しい問いでしょう。
初心者の人にとってはI‘ll close my eyesを弾くこと自体がチャレンジの部分があっても、レベルが上がれば、曲自体をそれなりに弾くこと自体はそこまで難しいことではなくなるかもしれません。そうなると、この曲を基礎練習の練習題材にすることもあるでしょう。(例えば、この曲を12のメジャーキーに転調しながらアドリブの感覚を養うのは、人によっては基礎練になるかもしれません。)
以上のことより基礎練というのは、自分の技術や演奏レベルを最低限維持したり、そこから一歩高いレベルに行くために必要な、地味な反復練習と定義できる気もしてきました。
・ハーモニー(コード)
続いてコードのボイシングですが、一般的に思いつく基礎練としては、種々の教本に書かれている、様々なボイシングパターンを練習するといったところでしょう。
左手ルート+右手3度7度、左手ルート+右手4声、バドパウエルボイシングなどなど、細かいことを挙げていればキリがありません。ちなみに体系的に学ぶならば、ATN出版Philipp Moehrke著の「ジャズ・ピアニストのための コード・ヴォイシング・ワークブック」(旧ジャズワークブック ジャズピアノヴォイシングコンセプト)が良いように思います。随所で申している通り、ATNは良書が多いです。
で、結局、このコードの練習というのも、ツーファイブワンに合わせてボイシングを練習しようと考えた場合は、先の鶏卵問題に直面します。つまり、既に述べたように、枯葉と「ツーファイブワン」の差などはあってないようなものです。
他にはスタンダード曲のEverything happens to meは曲を練習しながらスプレッドを習得しやすいと考えています。
もはや、曲なのか、基礎練なのか分かりません。そして、くどいようですが、初心者ではリードシートからここまで例に挙げたようなボイシングを組めないから、ボイシングの基礎を知るために教本があるわけです。
この時、教本に「こういったボイシングはスタンダードのCherokeeやEverything happens to meなどと相性が良い」などと書いてあれば、非常に親切と言えます。多くの場合、ただボイシングが書いてあるだけだから、慣れないとボイシングは覚えられるけど、曲は弾けないないという状態に陥るのです。
他の例として、以下は酒バラのコード進行を左手ルート単音、右手4声のボイシングで表したものです。冒頭に書いた「ジャズの基礎練って何するの?」という話が出た時に、流れで弾いたので、ここでも用いることにします。(今回はB♭m7だとメロディと音がぶつかるとか、なんでB♭m7は9th入れてないの?とか細かい点は無視して下さい。)

さて、これは基礎練なのかどうか?あなたはどう考えるでしょうか?
こういったパターンのボイシングを散々やっている人でも、もしも酒バラを初めてやる場合ならば、実践的な練習になる可能性があります。もしかすると、2小節ごとに区切ればツーファイブなどでスムーズにボイシングできても、曲全体の流れでは難しく感じるかもしれません。
とはいえ、これをそのままそっくり実際の演奏の場所で弾くことは、ほぼ確実にないですから、そういう意味では基礎練習です。それに純粋にピアノの技術的には決して難易度も高くありません。
ここでも、左手ルート+右手4声のボイシングのツーファイブワンを記載するだけでなく、実際の酒バラに当てはめると、基礎練習だけれども、実践的な「練習曲」が出来上がります。
いかがでしたか?「ジャズの基礎練って何やるの?」という何気ない問いについて考えてきましたが、実は非常に難しい質問だと、改めて思いました。一旦の結論としては、「自分の技術や演奏を一定水準以上に維持、または引き上げるために反復して行う練習」としました。その細かい内容は人によって異なりますが、基礎練習と実際の演奏をいかに上手く「接続」するかは非常に重要です。
最後にまとめますと、ジャズの場合、コード進行に則ったアドリブの割合が高く、よく演奏されるスタンダード曲を基礎練習に用いることができます。また、基礎練習のために書かれた曲の多くは、スタンダード曲を元にした曲であり、その関係は「鶏と卵」のような状態です。
初心者のうちは、実践的な演奏の中から、基礎練習的な要素を抜き出すことが難しいため、教本などで基礎的な練習を行う場合が多いですが、いずれそれを実践の場に移行、接続する必要が出てきます。
この時、練習曲はスタンダードを元に書かれているにも関わらず、上手く接続するのが難しいことが多いため、今回はその接続の仕方の例をいくつか示しました。
今回の記事が役に立てば幸いです。
もっとジャズについての情報を知りたい方は是非メルマガ登録をどうぞ!
「ピアノ経験者がジャズピアノを始めたときに、
挫折しないために知っておくべき重要ポイント」
・約37000字に渡り解説した、ジャズピアノをやり始める時に知っておきたいこと。
Comentarios